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がんの標準治療がなぜいいのか。「起立性調節障害」という病気から学んだこと/50代。乳がんサバイバーになりました。

hijiri

hijiri

都内在住の50代会社員。2019年5月に乳がんと診断される。仕事を続けながら同年10月までに3回にわたる手術を経て、2020年1月に放射線治療が終了。現在は、10年間にわたるホルモン療法薬の服薬を継続、年に一度の検診で経過観察中。放射線治療中も継続したランニングの趣味が高じて、ランニングアドバイザー、スポーツ医学検定2級、ナヴィゲーションスキル ゴールドレベル等の資格を持つ。「琉球茶道ぶくぶく茶」東京分室主催。元おでかけ女史組メンバー。

 

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乳がんサバイバーであるhijiriさんは、20年前に突然意識が朦朧とし倒れることが続きました。原因がわからず不安な日々を送る彼女に、やっとくだされた診断は今でいう「起立性調節障害」。運よく国内に数人しかいない専門医に出会え、当時知られていない病名が判明したそう。その経験が「がんの標準治療」の信頼につながったといいます

「起立性調節障害」ってご存じでしょうか。以前は起立性自律神経失調症と呼ばれていました。
これは自律神経失調症の一種なのですが、様々な要因(ストレスなどが多い)で自律神経の一種である交感神経の働きが鈍ることから、簡単にいえば心臓へ戻る血液量が減少してしまう症状のことです。このため、血圧が一気に下がったり、脳貧血、失神などの症状を引きおこします。

 

私は、乳がんサバイバーにしては普通過ぎるというか、元気すぎる印象があるようです。もちろんふだん続けているランニングのおかげもありますし、けして不安に思わなかったわけでも落ち込まなかったわけでもありませんが、前回書いた「放射線治療中につらさはなかったのか」という読者の方からのご質問などからもわかるように、いわゆる”がん患者像”からはかけ離れているようです。

 

だからこそ、こんな連載を能天気に続けさせていただいているともいえるのですが、自分でもこのギャップはなぜだろうと常々思っていました。そしてまた一つ、思い至ったことがあるのです。

 

オランダで罹った原因不明の病気。

 

家族の仕事の都合でオランダで暮らして数年たったころ、さっきまで元気だったのに急に意識がもうろうとして倒れる、ということが頻繁に起こるようになりました。横になって30分もすればけろっと治るので、最初は貧血か、せいぜい体調が悪いのかな、と思っていました。(ランニングなどの運動を始める前は、わりと貧血体質でした。)でも、あまりに頻繁に起こるので不安になり病院に行ったのですが、端的にいえばその時点では原因がまったくわからなかったのです。

hijiriさん オランダ

言葉のせいもあったと思いますし、そもそもオランダはホームドクター制です。ホームドクター制とは、傷病が発生したときにはまずホームドクターの診察を受け、 診察の結果、ホームドクターが自分の領域を超えていると判断した場合のみ、その患者を専門医や大学病院に紹介するという制度です。オランダでは駐在者であっても誰もがホームドクターを持たなければならないのですが、ホームドクターが必要と判断しなければ各種検査なども行わないので、ある意味そのホームドクターの経験や判断に左右される部分があります。
すでに20年ほど前の話で、まだまだいろいろな症例なども過渡期だったのでしょう。その時は海外生活におけるストレス蓄積の疲れや、もしかしたらハウスダストなどもあるかもしれないから寝具などに注意してみては、ということでした。

 

アドバイスを受けて、ハウスダスト用の寝具をそろえたりといろいろやってはみたものの、症状は一向によくなりません。とはいえ、ホームドクター制ですから、セカンドオピニオンを受けるという発想もありませんでした。(可能だったのかもしれませんが、さすがに英語以外の言語では自分で可否を調べることは限界でした。)
日本にいる家族に相談したところ、たまたま親の在籍企業の関連病院につないでもらえ、数日の入院のために検査帰国をしたのです。

 

思ってもいなかった原因が判明。

 

3日ほどの検査入院の間、順繰りに複数の科でいろいろ検査しました。アレルギー検査はもちろん、もしかしたら三半規管あたりかもしれないと耳鼻咽喉科まで受診しましたが、まったく数値に問題は出ません。
医者の方々もあれこれ考えてくださったのでしょう。ある時、もしかしたらということで、脳血流専門の医者の指導のもと特殊な検査を受けるように言われたのですが、これがビンゴだったのです。

 

検査は簡単な内容で、ただ立っているだけ。難しいことは何もありません。
でも、30分ほどすると体がぶるぶると震えてきて心臓がバクバク、冷や汗がドバっと出てまったく立っていられなくなりました。そのうち意識がぼんやりしてきたところで検査は終了。そして出た結果が冒頭の起立性自律神経失調症(現在でいう起立性調節障害)だったのです。

 

通常、人は立っているときには自律神経の一種である交感神経が働いていて、重力によって落ちてくる血流を下半身の血管を収縮させることで心臓へ戻しているそうです。この交感神経の働きが鈍ると心臓へ戻る血液量が減少してしまい、血圧が低下したり脳血流が低下して脳貧血状態になるのだということでした。
今回、改めて調べてみて、当時「起立性自律神経失調症」と診断されたものが、現在は「起立性調節障害」という病名で自律神経失調症の一種とされていることを知りました。対応ガイドラインなどもあるようで、あのころに比べれば格段に研究は進んでいるみたいですが、その頃はまだまだ解明されていないことも多くありました。そんな中、そのころ日本でも数人しかいない脳血流専門の先生がたまたまその病院に在籍していて、原因と病名が判明したことはとてもラッキーなことだったと思います。

 

”どうしたらいいか”がわかっているのはすごいこと。

 

自律神経失調症を軽い貧血程度に思う人も多かった時代、特に私の症状は直前までは全く症状が起こらないので、生理痛のようにあまり病気として扱われなかったり、なかなか周囲に理解されなかったりという面もありました。
そしてなにより「なぜ自分がこんな状態になってしまうのかわからない」のは、とにかく不安でしかなく、対応方法も不明、つまりどうしていいかわからないことは苦痛でしかありませんでした。

 

原因と病名がわかったことで、立っている時は気を付けたり、あわせて運動などで脚の筋肉を鍛えるなどを続けた結果、今の私は立ち続けていても倒れるどころかフルマラソンを完走できるまでになりました。実はその時、医者には自律神経の不調自体は完全には治らないだろう、とは言われていて、疲れてくると今でも症状は出るので完治したわけではないかもしれませんが、原因も対処もわかっていることだし、自分ではオートマの車をマニュアル車に乗り換えたつもりでやっていけばいいのだと心に決めたことで、ここまでこられたと思っています。

hijiriさん イラスト

この私の経験から言えることは、国内外にかかわらず、病院に行って検査すればすぐに病名が判明したり、対処方法がはっきりしていたり、何なら標準治療があってどの病院であっても正しい治療が受けられる、というのは実はすごいことなんだよ、いうことなのです。
特に乳がんは患者数が多く、手術の順番待ちするくらいですから、専門機関は症例のバリエーションも多く、経験を蓄積しているはずです。

 

わからないことや不安があれば聞ける、疑問がすぐに解消してもらえる、というのは、考えてみればとても贅沢なこと。
当時の、起立性自律神経失調症(起立性調節障害)という診断を受けるまでの経験から考えれば、例えがんになったとしても、こうすればいい、が明確であることはずっと安心できる状態だったと思います。あとは完治の確率を上げるために、自分なりに納得できる道を選択するだけですから。
そう思えたことが、もしかしたら今の私につながっているのではないかな、と思ったりしています。

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