喉のフレイルを防ぐために、とるべき栄養素は?
そもそも飲み込む力を維持するために、「これを食べるとよい」という栄養素はあるのでしょうか?
「これを食べれば、喉の老化予防に効果的という食べ物や栄養素はありませんが、しいて言えばタンパク質をとることですね。嚥下機能を維持するには、喉仏を上下させる筋力を低下させないことがカギとなるからです。高齢者は筋肉の材料となるタンパク質が不足しがちです。肉類・魚介類・卵・乳製品などを積極的にとることを心がけ、低栄養に陥らないように1日3食きちんと食べていただきたいです」(西村耕一郎先生)
女性は閉経以降、女性ホルモンの材料だったコレステロールが血液中でだぶついてコレステロール値が上がったり、体重が増えやすくなったりしがち。だからといって無理なダイエットをすると、筋肉量が減ってしまうという落とし穴が! むしろ、タンパク質多めを意識して、エネルギーと栄養素を適切に摂取することが大切です。
「皆さんはフレイルという言葉をご存じですか? フレイルとは“健康な状態から要介護へ移行する段階”とされ、このフレイルの段階を経て、徐々に要介護状態に移行するといわれています。嚥下機能の低下は、いわば“喉の筋肉のフレイル”。そして、フレイルを引き起こす最大の原因が低栄養です。喉の筋力を維持するためにも過度なダイエットは避け、タンパク質をしっかりとって、バランスよく食べましょう」
西山先生のおすすめは卵かけご飯!
「最近むせやすい」という人に西山先生がおすすめするのは、卵かけご飯。
「卵は完全栄養食品とされ、タンパク質を手軽に補給できます。それに、卵かけご飯はとろみがついて飲み込みやすい、むせにくい。喉のフレイル予防にもってこいの食品です」
日本人の主食でもあるご飯はパサパサ&モソモソして、実は口の中でまとまりにくい食べ物です。ご飯粒でむせる経験をしたことがある人も、案外多いのではないでしょうか。でも、卵かけご飯にすると、適度なとろみがついて口の中でまとまりやすく、飲み込みやすくなります。
卵かけご飯は、あつあつのご飯さえあればおいしく食べられ、かつお節や納豆など好きなものをトッピングすれば、アレンジが可能。
「50代以降は若い頃と比べて食事量が減り、知らないうちに低栄養になってしまいがち。低栄養の人は、高齢者になったときに全身の筋肉が減少するサルコペニアや、要介護の一歩手前のフレイルに陥るリスクがあり、肥満ぎみの人よりも死亡率が高いのです。それに、全身の筋肉量が減ってフレイルの兆候が表れると、嚥下機能が低下することがわかっています。将来の健康寿命を維持するためにも、毎日のメニューに卵かけご飯を取り入れてください」
飲み込みやすい食べ物&メニュー。
とろけるチーズ、マネヨーズを活用しよう
飲み込みやすいメニューに共通するのは、適度なとろみがついていること。例えばゆでたブロッコリーにマヨネーズをかけると、とろっとしたとろみがついて、ブロッコリーが口の中でまとまりやすい状態に。また、ハンバーグやリゾットなども、とろけるチーズを加えると、口の中でまとまりやすくなるうえ、タンパク質の摂取量がアップ。しかも、とろみがついた食品は喉を落ちていくスピードがゆっくりになるので、誤嚥しにくくなります。
ただし、とろみをつけすぎると、ベタベタして飲み込みにくくなるので、「適度なとろみ」が重要です。
ブロッコリー、水菜、春菊、にら、白菜、ごぼう、長ねぎ、えのきなど繊維が多い野菜は、飲み込むときに引っかかりやすい傾向があるので、短めに切ったり、調理する前に電子レンジで温めてやわらかくしたりして、調理法を工夫しましょう。
<飲み込みやすくて、おすすめの食品>
バナナ、ヨーグルト、とろろ(やまいも)、アボカド、モロヘイヤ、絹ごし豆腐、サバの水煮、ひきわり納豆、粒のないポタージュスープ、ティラミス、プリンなど
知っておきたい! 油断すると誤嚥しやすいのはコレ
食事をするとき、まずは汁物から口にする人が多いと思いますが、実は「液体」はむせやすいメニューの代表格。喉を流れるスピードが速く、気管に入り込みやすいのです。
次の3タイプの料理や食品は、嚥下が複雑になり、飲み込むときに誤嚥しやすいので要注意。
① 液体と固形物が同時に口の中に入ってくる料理…麺類、味噌汁、スープなど
② 噛んだときに水分が飛び出してくる料理…トマト、ぶどう、高野豆腐、小籠包など
③ 複数の細かい具材がミックスされた料理…野菜炒め、そぼろ、ひじき、かつお節のふりかけなど
誤嚥に注意が必要な食品といえば、粘着力のある餅がすぐに思い浮かびますが、実はほかにも、普段何気なく食べている食品が誤嚥のもとになるケースが少なくありません。
例えば、焼きいもやカステラ、フランスパン、パンの耳は、口の中の唾液を吸収してしまい、うっかりすると飲み込むときに喉につまりやすい食品です。また、丸い形状のプチトマトやぶどう、うずらの卵、いちごなども、丸ごとほおばると、喉に引っかかって窒息しかけたり誤嚥しやすいので、注意が必要です。
<むせすやく、誤嚥しやすい食品>
主食…おにぎり、餅、海苔巻き、フランスパン、パンの耳など
おかず…かまぼこ、鶏の唐揚げ、里いもの煮物、かぼちゃの煮物、焼きいも、硬いステーキなど
デザート…ゼリー、団子、カステラ、飴、いちご、ぶどう、りんごなど
【教えていただいた方】
医学博士、東海大学医学部客員教授、藤田医科大学医学部客員教授。耳鼻咽喉科頭頸部外科専門医、日本嚥下医学会嚥下相談医、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士。現在は複数の施設で嚥下外来と手術を行うかたわら、教鞭をとりながら、学会発表や医師向けセミナーを行う。著書に『肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい』(飛鳥新社)、『のどを鍛えて肺炎を防ぐ』(大洋図書)、『誤嚥性肺炎に負けない1回5秒ののどトレ』(宝島社)など多数。
イラスト/カツヤマケイコ 取材・文/大石久恵