更年期に多くの女性が悩まされる、イライラや落ち込みなどのメンタル不調。同時に、親の介護や夫婦の問題、子どもの巣立ちなど、やっかいな問題も起こりがち。
そこで、女性の悩みに冷静かつ温かいアドバイスをくれると評判の産婦人科医・高尾美穂先生に、読者の悩みと向き合ってもらいました。「相談室」で、あなたの心が少しでも軽くなりますように。
高尾美穂先生ってどんな人?
イーク表参道副院長。産婦人科専門医。さらにスポーツドクター、ヨガ指導者でもあります。産婦人科医になったのは「一人の女性の体を、初潮を迎えたとき、生理痛やPMSで悩んだとき、恋愛をして性交渉のことで悩んだとき、妊娠・出産のとき、更年期、閉経後と、人生を通して長く診ることができるから」だそう。診療のかたわら、NHK「あさイチ」への出演をはじめ、多数のメディアやSNSで情報を発信。音声配信アプリstand.fmの番組「高尾美穂からのリアルボイス」ではリスナーの多様な悩みに回答しています。著書に『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』(講談社)など。脳外科医の夫あり
なぜ更年期って心がつらくなるの?
エストロゲンが大きく変動することで、心が不安定に
まず、更年期にメンタルの不調が起きやすい理由を高尾美穂先生に伺いました。
「理由は、おもに3つあります。ひとつは女性ホルモンの変動です。女性の体では、生涯において女性ホルモンのエストロゲンの量が大きく変動しますが、エストロゲンにはメンタルや自律神経を安定させる作用があるため、その量が減るとメンタルが不安定になりやすくなります。
そして女性の人生でエストロゲンが減るタイミングが『生理前』『産後』『更年期』の3つで、これらの時期はどうしてもメンタルの不調が起きがち。特に更年期はエストロゲンの分泌量がアップダウンを繰り返しながら減少し、大きく変動するのでメンタルが不安定になります」
では、ほかのふたつの理由とは?
「更年期は、プライベートで問題を抱えやすい時期というのも理由のひとつです。特に子どもの巣立ちや、家族との死別などによって喪失感を感じ、ストレスから自律神経のバランスを乱してメンタルの不調を起こす人も多いですね。
もうひとつは、世の中が更年期について正しく理解できていないことも関係していると思います。更年期を迎える前から過剰に不安になる人も多いようで、それも40代以降、メンタルの不調を起こしやすい理由だと思います」
いちばん変えやすい「自分のこと」から変えましょう
メンタルの不調を少しでも軽くするにはどうしたらいいのでしょうか?
「悩んでいることに対して、他人を変えることは難しく、逆に変えやすいのは自分のことです。更年期のメンタル不調の原因のうち、プライベートな問題や、世の中が更年期の不安を過剰にあおることは自分以外の問題なので、なかなか変えられません。でも女性ホルモンの変動は自分のことなので、まずこれを変えるのが近道。女性ホルモンの変動はHRT(ホルモン補充療法)で抑えられる時代ですし、つらい症状があるなら積極的に取り入れるといいと思います。体の不調も心の不調も治まりやすくなります。
HRTに抵抗があるなら漢方薬などの方法もあるので、できることからやっていきましょう。また、更年期について正しい知識を持つことも大事。そうすれば過度に不安にならずにすみます。更年期が過ぎれば、女性ホルモンに揺さぶられない穏やかな時期がやってきます。できることを取り入れて前向きに過ごしましょう」
女性ホルモンと女性の人生の関係
更年期のメンタル不調3つの原因
●女性ホルモンのアップダウンが激しい
●死別、子の巣立ち、親の介護など環境変化が起きやすい
●世の中が更年期のことを正しく理解できていない
※この企画で取り上げた悩みは、2022年7月28日〜8月10日の期間にOurAgeで募集したものです。
撮影/山田英博 取材・原文/和田美穂