『ことばのトリセツ』著者インタビュー
黒川伊保子さん Ihoko Kurokawa
人工知能研究者、脳科学コメンテーター、感性アナリスト、日本ネーミング協会理事。大学卒業後、コンピューターメーカーにてA(I 人工知能)の研究に従事。その途上で発見した対話スタイルの男女差や、語感と身体感覚の関係によって、感性分析の第一人者に。『妻のトリセツ』(講談社+α新書)など著書多数
著者interview
大切なのは、意味より語感!
感性を生かして〝ことば上手〞に
世の夫たちに、理不尽な妻とのつき合い方を指南した『妻のトリセツ』が大ヒット。男女間コミュニケーションの達人と称されている黒川さんですが、そもそもの専門分野は言葉の"語感"。30年ほど前、時代に先駆けて取り組んだ人工知能の開発がきっかけでした。
「AIの対話システムに、言葉のニュアンスを与えるための研究です。例えば返事。『はい』と『ええ』では、受け手の感じ方が違いますよね。急ぎの用事を頼んだとき、『はい』と言われればすぐに解決してくれそうな頼もしさがありますが、『ええ』と返されたらのんびり聞こえて、イライラしてしまうはず」
こうした印象は誰もが直感的に共有できますが、実はその"語感"は、言葉を発するときの口の形、舌の位置や動き、息の出し方といった物理的な体感とリンクしており、すべてを数値化できるというから驚きです。
「喉を広げ、肺の空気を一気に排出する"ハ"は速さを、喉の奥から強い力を発する"イ"は前向きの力を表します。だから『はい』には前向きなスピードを感じるのです」
つまり言葉のイメージは、音の性質によってプログラムされているようなもの。この緻密な語感のシステムを日常で生かすコツは?
「わかりやすいのは、『でも』『だって』といったD音の接続詞に気をつけること。Dはどっしりとした落ち着きを表す一方、実は会話クラッシャーでもあります。一生懸命話をしているのに、『で?』って返されたら、とたんにブレーキがかかりますよね。また、好まれる語感は、時代とともに変化します。夢や癒しがもてはやされた時代を経て、今は強さが求められる時代。息や筋肉が鋭く動き、直線や強さを感じさせるTやK、Pといった音韻の好感度が高くなっています。はやりの"タピオカ"にもこれらの音が入っていますよ」
なるほど! これまで漠然と感じてきた言葉にまつわるモヤモヤが、語感の解説を通してすっきりと晴れていくのは快感です。まさに言葉のプロですね。
「いえいえ、むしろ私は言葉のセンスがなくて、俳句などは大の苦手(笑)。でも、だからこそ客観的に、どんな言葉もじっくりと分析ができるんだと思います」
言葉の響きに耳を澄まし、ひとつひとつすくい上げて光を当てる。語感への愛に満ちた黒川さんの新著『ことばのトリセツ』には、毎日を豊かに彩るヒントがいっぱいです。
「女性は一般に、語感に対する感性がとっても鋭いの。だから自信を持って、素敵な言葉をケチらずに会話を楽しんでほしいですね」
『ことばのトリセツ』
黒川伊保子 著/集英社インターナショナル 780円
言葉の感性に着目して以来、28年にも及ぶ語感分析の成果をまとめた一冊。語感の正体をわかりやすく解き明かし、男女関係、職場、ネーミングなど、さまざまな場面で役に立つ「ことばづかい」の極意が満載です。
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