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産婦人科医が考える「幸せなコロリ~よい最期」とは?

50代、人生の後半戦を迎えて、自分の“死”、「幸せなコロリ」についてイメトレする連載。人生の先輩でもある産婦人科医の松峯寿美先生へのインタビューはいよいよ最終回です。今回は産婦人科医として40年以上、生と死に向き合ってきた松峯先生が考える「よい最期」について。

東京・木場で東峯婦人クリニックを開業する松峯寿美先生は、現在76歳。診察室で妊婦さんや更年期の患者さんたちと向き合う毎日です。

 

「実は私、『人は輪廻転生によって生まれ変わる』と信じているんです。ちなみに、『あ・うん』の呼吸の『あ』『うん』とは、仏教の教えでは、赤ちゃんが『あー』と泣いて生まれてから、『うーん』と息を吐いてあの世に戻っていく、人の一生の『生』と『死』を表した言葉なのだそうですよ」

 

すべての人が祝福されて、この世に生を受ける

 

日本人の平均寿命は女性が87.57歳、男性が81.47歳とされていますが(厚生労働省の2021年簡易生命表より)、寿命というのは人それぞれ。人生最後の「その日」はいつやってくるか、わかりません。

 

「人は誰しも明日死んでもおかしくない存在。だからこそ、一人一人のお母さんたちがよいお産をして、赤ちゃんたちが『オギャー』という元気な泣き声とともに生まれてこないと困るんです。まずは『生まれてくる』ことが、その子の人生の第一歩ですからね」

 

赤ちゃんの「オギャー」という産声は「やったー!」「頑張って外に出てきたよ!」という第一声。その日生まれた赤ちゃんを取り上げるたびに、「頑張ったね」「これから幸せになってね」と、祝福の気持ちでいっぱいになるという松峯先生。

 

赤ちゃんを抱っこする松峯先生

↑医院に飾ってある松峯先生の写真

 

この世に生を受けた赤ちゃんたちが元気で健康であれば、この先、人生100年といわれる道のりを歩んでいきます。すべての子たちがさまざまな可能性を持って生まれてきているのです。

 

「私が分娩を担当した赤ちゃんたちが、やがて天寿をまっとうしたとき、『自分は生まれてきてよかった』と後悔することなく旅立ってくれたら、その子たちを取り上げた産婦人科医として、医者冥利に尽きると思っています」

みんなに祝福されて生まれてきた赤ちゃん

 

 

「よい最期」を迎えるには、後悔しないこと

 

松峯先生自身、ふと、自分の人生の最期の瞬間に思いを馳せることがあります。人は皆、生まれてくるときはたった一人。死んでいくときも、たとえ自分のまわりに親族が10人いたとしても、一人であの世に帰っていきます。でも、それを孤独で寂しいと思うことはなく、「『これまで幸せな人生だったなあ』『楽しかったなあ』という思いとともに旅立っていくだろう」とイメージしているのだとか。

 

「人生は一瞬一瞬の積み重ねです。その人の生き方、今の気持ちが「人生のエンディングに何を思うか?」に関わってくるのかもしれませんね。この頃の私自身は『たとえ明日死んでも悔いはない』という気持ちで、自分なりに誠実に生きていこうと思っているところです」

 

では、今の自分の幸福度をアップするには、どうすればよいのでしょうか。

 

「まずは、自分の選択に対して後悔しないことですね。私の場合、自分が選んだことに対して後悔しないから、他人のせいにすることもないし、幸福度が高いですよ」

 

時間を巻き戻すことはできないので、「あのときの選択がこうであったら、もっと違う人生だったかもしれない」とクヨクヨと悩んでも始まりません。人生にはたとえ失うものがあったとしても、必ず得るものがあるのです。「あのときの選択があったからこそ、得られたものがあり、今の自分がある」「自分の選択は常に間違っていなかった」と自己肯定感を持つことが、よい人生を過ごし、よい最期を迎えることにつながると、松峯先生は信じているのです。

後輩たちにバトンを渡す準備も少しずつスタート

 

日本では、50代を迎えると昇進が止まって、給料が増えなくなる仕組みもあります。まだまだ現役で頑張りたい!と思いながらも、体力と気力の低下を感じている人も多いでしょう。

 

「たとえ給料が下がったとしても、お金に換算できない自分なりのやりがいをプラスに考えていきたいですよね。そうはいっても、10年前に比べて体力が衰えているのは事実ですから、体調を崩さないためにも、根を詰めて頑張りすぎないことが大切です。70~80点を合格点と考えるといいかもしれません。そして、仕事のクォリティの低下は避けたいですから、そんなときは後輩たちに経験を積むチャンスを譲って、20~30点分を補ってもらい、100点の仕上がりを目指すのもひとつの方法です」

 

後輩に2~3割の仕事を預けて見守るうちに、彼女たちはしだいに慣れていき、自信を持てるようになっていきます。そうすれば、自分も容量オーバーになりませんし、自然な流れで後輩にバトンを渡す準備ができるのです。

 

「かくいう私も、現在、クリニックで仕事をともにしている後輩の医師たちや、長女にバトンを渡す準備を始めています。開業医には定年がありませんから、まだまだ現役で働き続けるつもりですが、クリニックを将来的に受け継いでもらうために、今は経営トップとしての理念や方針、患者さんへの接し方などをスタッフに伝えている真っ最中です」

 

OurAge世代の私たちは「老後はまだ先のこと」と思ってしまいがちですが、10年、20年がたつのはあっという間。この先、年齢を重ねるにつれ、いずれは介護を受けるときがくるかもしれませんし、人の手を借りることが必要になってきます。

 

「この先、自分が困ったときに、人に助けてもらうのは恥ずかしいことではありません。人にサポートしてもらうことを『憐れみ』ととらないで、差し伸べてくれる手をしっかりと握って助けてもらいましょう。そして、笑顔で感謝の言葉を伝えられる人でありたいですね。『ありがとう』は魔法の言葉。素直に人に頼ることも大切な年の重ね方です」

 

お話を伺ったのは

松峯寿美
松峯寿美さん
東峯婦人クリニック名誉院長
公式サイトを見る

日本産婦人科学会専門医。医学博士。妊娠・出産はもちろん、思春期、更年期、老年期の女性に寄り添い、40年以上診療を続けている。著書に『婦人科医が不安と疑問にやさしく答える 更年期の処方箋』(ナツメ社)、『50歳からの婦人科 こころとからだのセルフケア』(高橋書店)など多数。

 

イラスト/内藤しなこ 取材・文/大石久恵

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