これは、まだ私が20代前半の駆け出しだった頃の話。
当時は、岡山の偏見に満ち満ちた田舎からやっと脱出して数年程度、残念ながら言葉も雰囲気も隠しようのない、田舎生まれ、田舎育ち、まぎれもなく一条は田舎者でした!(このしつこさと自虐を解るあなたも田舎者(泣))
岡山の田舎から都会を目指す一般コースは普通大阪辺りなんだけど、一条の場合新人賞をもらった集英社を目指したもので、いきなり日本一の大都会!!東京です━!!
1時間に1本しかない バス、電車の地域から、突然の山手線やら中央線に毛細血管のように張り巡らされた地下鉄!! 挙句の果てには新幹線よ!羽田からパリに行けちゃうのよ!!気分は、市の大会に出たらお次はいきなりオリンピ━━ック!!でした。
漫画を描く時も「田舎者だと思われたくない」「ダサいと思われたくない」という気持ちがすごく強かったんだけど、実際田舎者だったんだから、田舎者だと思われるのは当たり前だし、見栄っ張りでキャパが狭いと言うか…現実を受け入れたくない見苦しい現実逃避、この青臭さが若さというものなのよね。ふぅ~茶が旨いわ。
でもまあしかし、いろいろ悩みつつ、日本地図を見ながらすごいことを発見!
あれっ?ちょっと待て。東京大阪は確かに人口は多いが、日本全土を見たら日本のほとんどは田舎じゃないか!ってことは、読者の8割は私と同じく田舎者ではないかと。
これはもしかして、田舎者の憧れを描けば、田舎者は食いつくのでは!?
しかも!田舎者がどんなことに憧れるかは、「私がいちばん知っているぞ!」
ハレルヤ〜❤この瞬間 一条は覚醒したのであった❤❤❤
あの当時、私のような田舎者が考える東京って、まさにニューヨークの摩天楼のようなイメージだったのよ。服装もみんなファッショナブルな恰好をして、その辺を普通に芸能人が歩いていると思ってた。
でも、実際に東京に来たら、「あれ、なんだか田舎臭い」(笑)。おしゃれな人もいたけど、全然イケてない人もたくさんいて、「いや違う、私が思ってる東京はこんなんじゃない」と思ったもんだわさ。
私が東京に抱いていたイメージ、摩天楼のような憧れの東京。実際の所帯臭い東京は無視して、私の東京を描くといたしましょう。そして実際東京に来た時に、ちょっとがっかりしても…そんなもんです(笑)。だから『デザイナー』のバックなんか、すごい摩天楼になっている(笑)⤵
「デザイナー」<りぼんマスコットコミックスDIGITAL>
このバッグを描いてくれたのは弓月光。この時1974年 、49年前だ!!
この時はいくらなんでも盛りすぎだろと思ったけど、最近の西新宿、こんな感じよ。
時代が妄想に追いついてきたなあと、ちょっと感動です。
一条の興味は「都会の遊びとは、いかがなものか?」だったので、私も街に出ていろいろ遊んで、人脈を広げたりしてね。体力が続く限りの、遊び→仕事→遊び→仕事の無限ループで死ぬかと思ったわ(笑)。
この頃流行っていた本「書を捨てよ 町へ出よう」を実践。寺山修司…懐かしい。
一方、私と正反対なのがくらもちふさこさん。彼女は東京育ちのお嬢様。そんなくらもちさんが描いた『天然コケッコー』は、まさに都会者じゃないと描けない田舎の話なんだよね。いい話だけど、実際の田舎よりモロ田舎(笑)。田舎臭さがあまりに際立ちすぎて、私が東京を描くと摩天楼になるのと逆パターンだ(笑)。
つまり、憧れっていうのは現実を歪めて倍増させる力があって、妄想こそが作品を生み出す最高の原動力になるって話なんだけど、「自分が田舎者であることが武器になる」とわかった時は、何と言うか…微妙だったわ。
取材・文/佐藤裕美
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