友人のアンチエイジングドクター青木晃先生から、「若さを保つためにはチャンレジ精神をもって、色々なことにトライしたほうが良いよ」と常々言われているために、色々なことに挑戦するように心がけている。
そんなある日、人気番組『情熱大陸』にも登場、世界でもっとも有名な航空写真家である”世界の徳永克彦”先生から
「井原さん、ちょっとヨルダンに行って、アカバでアクロバット飛行して、アリア王女とお茶しませんか?」
という唐突なメッセージが送られて来た。(紅海を見下ろしながらのアクロバット飛行ですって!)
「もちろん、行きますよ!」
スケジュールも確認せずに即答した。チャンスは素早く前髪を掴まねばならないし、若さを保つためにチャレンジもしなければならない。
「そしたら、自分で航空券取って、ヨルダンまで来てくださいね」
「取ります取ります」
ヨルダン・アクロバット飛行ツアーは秒速で決まり、私はヨルダンへと飛んだ。
今回、日本のプレス(それは私)のためにスペシャル・パッセンジャーフライトを申し出てくれたのは、ロイヤル・ジョルダニアン・ファルコンズ。王室(Royal Court)に所属するチームで、ASEZA(Aqaba Special Economic Zone Authority)が運営をサポートしている。ミッションは「ヨルダンが平和でフレンドリーな国であることを、エアロバティックス(アクロバット飛行)を通じて世界へ伝えること」だという。
創立は、1967年というから、すでに半世紀を超える歴史を誇っている。最初は、3機の飛行機と3人のパイロットでスタートしたが、今や8 人のパイロットと13人のエンジニア、それに4人の事務スタッフを抱えている。機体は、昨年購入したばかりのExtra 330LX。
ぴかぴかの赤い機体をよだれを垂らしながら見ていると、隊長のガジーがやって来て言う。
「実は、ちょうどこれから僕たちのチームでイギリスBBCの番組に出るんだよ。それに乗って、一緒にテレビに出る?」
時はあたかもアラブ反乱100周年。BBCの肝いりで、オスマントルコとアラブの戦いをアカバ鉄道とロイヤル・ジョルダニアン・ファルコンズで再現するのだという。
「僕たちはアラブ空軍の役なんだ。上空から鉄道に向かって下降して、何度か攻撃するふりをする。アラブ軍が勝利した後は、紅海上空で空中アクロバットを披露する。長時間飛んでも大丈夫だったら乗せてあげるよ」
「大丈夫大丈夫出ます出ます」
もはや自分の類まれな幸運さに酔いしれるばかりである。アラビアのロレンスよ、ありがとう。
鉄道には、実際にこの日のためにチケットを購入した乗客が乗っているという。アカバ付近で偽アラブ軍が鉄道を乗っ取り、乗客を拉致するらしい。拉致された乗客は、ご馳走を食べながら、エアショーを見るのだそうだ。
まずは、ブリーフィング。
濃い顔をしたパイロット、バサムから、飛行機の乗り込み方、パラシュートの使い方、マイクを通したコミュニケーションの取り方を学ぶ。
「”ベイルアウト”と3回聞こえたとき、あるいはキャナピーが開いた場合は、非常事態が起こったということ。 離陸のときや近場のときは、飛行機からすみやかに降り、離れてください。空中で非常事態が起こったときは、主翼と尾翼の間45度の場所から飛び降りてください。パラシュートで着陸するときは、地上で倒れこむようにすると、足を折ったりしないですみます」
(足を折る?)かすかな不安が頭をかすめたが、それより「飛べる」期待ですでに気持ちは3000m上空にいる。もはや私を止めるものはないのである。
いよいよExtra 330LX に乗り込む。パイロットが後ろで、パッセンジャーが前。宙返りしたときに体が浮かないように、整備士の人にキリリとストラップを締めてもらう。最後にシックバッグを「一応持っていてね」と渡され、太ももの下に挟む。気分が悪くなったとき、ポケットに入れてあると間に合わないからである。今回は、撮影のため、途中で降りることはできない。90分近く、急降下急上昇横ぶれ宙返りを繰り返す飛行機に乗り続けなければならないのである。宙返りのときにシックバックを使ったら、自分の吐いたものを浴びることになる。(吐くなら通常飛行のとき限定)と心に刻み込んだ。
4機のフォーメーションのうち、私はバサムと最後尾につく4番機で飛ぶことになった。
キャノピーを閉めると、ヘッドセットから1番機のガジーの指示が聞こえて来た。
「ファルコンズ。無線機チェック!」
「2!」
「3!」
「4!」
「ファルコンズ。エンジン始動」
「2!」
「3!」
「4!」
「ファルコンズ。タキシーアウト準備」
「2!」
「3!」
「4!」
かすかな雑音混じりに聞こえるガジーの元気いっぱいの大声と、それに「2!」「3!」「4!」と間髪入れずに機番で応えるパイロットたちのやり取りを聴くと、体中に快い緊張感が走る。すでに気分はトム・クルーズ。パッセンジャーとはいえ、目の前の機器は実際に操縦に使えるのだ。パイロットになにかあれば、私が操縦するしかない。まかせろ、バサム。私は心の中でつぶやいた。プロペラが回り始め、各機体が滑走路へとゆっくりと動き出す。
「アガパ管制塔、ファルコンズ、テイクオフ準備完了」
「ファルコンズ, テイクオフ許可。風向004、4ノット、Runway 19」
「ファルコンズ、離陸!」
隊長の号令と共にExtra330LXは、膨らむだけ膨らんだ私の期待を浮力に軽やかに飛び立った。
「月の谷」ワディ・ラムの砂漠上空へ!
上空から見下ろす赤い砂漠
ヨルダンは、日本の4分の1ほどの面積の中に、さまざまな景色を抱えている。ガイドブックには8割砂漠の国などとあるため、地平線まで茫漠と続く砂漠という景色を想像するかもしれないが、実際のところは多様性に満ちている。国産の白い石でできた首都アンマン、延々と続く黄土色の砂漠に、赤茶けた岩がゴツゴツする砂漠ももちろんあるが、いきなり緑豊かな田園地帯が現れたりする。農地がある地域には、常緑樹の森もあり、この国でもっとも標高の高いウムアルダミ山(海抜1854m) の頂上は冬には雪で覆われる。
とはいえ、やはり一番の見所は「月の谷」ワディ・ラムと「古代都市」ペトラだろう。
今回のフライトでは、そのうちのひとつワディ・ラムの砂漠上空を飛び続けた。
赤茶けた岩肌をむき出しにした小さな山ほどの奇岩群を上空から見下ろす、というのは、まるで宇宙船で火星へアプローチしているかのようだ。生物の気配のない無骨な奇岩砂漠は、太陽が位置を変えると共に影を変え、表情を変え、見飽きることがない。奇岩の間をすり抜けるように、左右に振れながら飛ぶ330LX。そのうち、ゴトゴトとやけに人間臭い列車が登場し、ファルコンズは攻撃(のふり)のために急下降、急上昇を繰り返し、とうとうオスマントルコ軍をやっつけたのである。
その後は、真っ青な紅海と白いアカバの街、そして赤茶けたワディ・ラム砂漠を一望に”私たち”ロイヤル・ジョルダニアン・ファルコンズは、歴史に残る(私の心の)アクロバット飛行をし、アカバの空を見上げる人たち全員に拍手喝采されたのである。
2度目の世界遺産的戦闘機ヴァンパイアでのフライトへ!
翌日のこと
「今日はハンターとヴァンパイアの撮影をするんですが、乗りますか?」
と世界の徳永から聞かれ
「乗ります乗ります」
と即答。そんなチャンスを逃す人間はこの世にいない。
「なんせ古い機体だから、いつエンジンが止まるかもわからないよ。それでもいいんだね?」
とガジー隊長から念を押され
「なにがあっても文句を言いません。私の遺族も絶対に異議申し立てなどしません」
という念書にサインをするように言われる。
飛ぶということは、リスクを承知した上でなければならない。それに歴史的戦闘機のエンジントラブルでワディ・ラム砂漠に墜落というのは、おばさんの死に方としては上等ではないか。
徳永氏の撮影プランは、秒毎に機体の位置、角度、撮影時まで決まっている。
「PC-21 、ヴァンパイヤ、ハンターの順で離陸して、上昇しながら010まで右に旋回。最初はこちらがテイクリードするから、バンパイア、ハンターの順に上昇中にルーズなライトエシュロン。」
と説明を始めたものの、話が終わらないうちに、ガジー隊長は
「おっけー。わかった!飛ぼうぜ〜」
と腰を浮かす。
「いや、まだ説明終わってないから」
と徳永氏が言うと、3分くらい静かになるが、じきに
「あ、そこな。任せとけ!じゃ、行く?」
と腰をあげる。こうした攻防が何度か繰り返され、徳永氏の眉間には深いシワが刻まれていった。
撮影のために、PC- 21(徳永氏) ハンター(パイロットコーチのドレイド氏とバシム) ヴァンパイア(ガジー隊長と私)に分かれて飛ぶことになった。
再びパラシュート降下のシミュレーションをしたあとで、パラシュートを背負って、機体に乗り込む。横並びの座席は、ガジー隊長と腕が触れ合うくらい狭い。
コックピット内には、パウチされたB5くらいの「ヴァンパイヤに乗る前に」というリーフレットがおいてある。隊長はそれを読みながら
「えーと、まずはスロットル。スロットルは、うーんとここだな。これをニュートラルにして、燃料バブルを開けてと…GPUは繋いでるな。よしよし、エンジンの回転が上がってきた。ふんふん。あー、70%、80%。ふんふん。」
(・・・・え、今ごろチュックリスト!)
私の怪訝そうな顔をちらりと見て、隊長は言う。
「大丈夫だよ〜。毎回、僕たちはどんな飛行機に乗るときも、こうやって確認するんだから。ま、エンジントラブルだけはどうにもならないけどねー。とにかく古いから、優秀なエンジニアたちが丁寧に整備していても、なにも起こらないって確証はできないんだ。でも、きっとだいじょーぶぃ!」
ガジー隊長は、あくまでも底抜けに明るいのである。
2度目の世界遺産的戦闘機でのフライトは、非常に快適だった。砂漠の上を延々と飛行し、徳永氏の指示に従って、角度を変えたり、旋回したり、平行に飛んだり。眼下に広がる奇岩群は、午後の光を浴びて赤味を増し、いよいよ火星らしさを増していた。轟音を立てるエンジンのせいで、袖擦り合うほどの近くにいるガジー隊長ともマイクとヘッドフォン越しに怒鳴りあいながら話すことになる。
徳永氏からの指示が時折入り、そのたび隊長は
「了解」
と爽やかに答えては、速やかに滑らかに操縦桿を操るのであった。
ややガスってはいるけれど、天気も良好。さぞかし、世界の徳永が誇る世紀の一枚が撮影できたに違いない。隊長と私は砂漠の上空で共に親指をあげ、にっこりと微笑み合った。
愉快なガジー隊長と親切なドレイド部長率いるロイヤル・ジョルダニアン・ファルコンズのショーは、毎年ヨーロッパで開催されている。ショーのスケジュールは、こちらのウエッブサイトで確認できる。
Web-site:http://www.rjfalcons.com/rjf/en/index.cfm
Face Book:https://www.facebook.com/The-Royal-Jordanian-Falcons-official-fan-page-289217323204/
サイトやFaceBookでは、ファルコンズの素晴らしいショーを動画で見ることができる。来年は、ぜひヨーロッパに赴いて、華麗なファルコンズのショーを堪能して欲しい。
取材協力
DACT Inc.
Royal Jordanian Falcons
アカバ政府観光
次回は、ヨルダンのスキンケア製品、アトピーの子どもたちのために生まれたオーガニックコスメ「アミナ・ナチュラル・スキンケアプロダクト」について。
ブログ「世界1000都市ものがたり」
https://ameblo.jp/surprise-enterprise/entry-12346265421.html