【この回の質問に答えてくださった方】
大正製薬株式会社2016年入社。研究本部セルフメディケーション研究センター セルフメディケーション開発薬理研究室所属。ヘアケア開発に8年従事。
大正製株式会社2020年入社。研究本部セルフメディケーション研究センター 製剤第3研究室所属。ヘアケア製品やその他OTC医薬品外用剤の開発に約4年従事。
2019年に日華化学株式会社に入社。シャンプー、ヘアトリートメント、頭皮用エッセンスなど、サロン専売のヘアケア商品の処方開発を担う。入社当初より、イーラルブランドに携わり、開発担当者として処方設計やエビデンスデータの取得に携わる。
色素幹細胞が残っていれば、白髪からの回復も可能
セトッチ:毛髪を専門に研究なさっている皆さんに、ぜひ伺いたいことがあります。
50代にもなって、今さらこんなことを望むのもお恥ずかしいような気もするのですが、そもそもヘアカラーをする必要のないよう黒髪が生えてくるようにはできないものなのでしょうか?
白髪や薄毛など、加齢に伴う毛髪の悩みを研究されている製薬会社の大正製薬さん、いかがでしょうか?
大正製薬 谷:難しい質問ですが、まったく望みがないわけではありません。
まずは、なぜ白髪が生えてくるのか、そのメカニズムをもう一度おさらいしてみましょう。
白髪になる原因はいくつかあります。
まず、髪の色のもとになるのがメラニンと呼ばれる色素で、それを作っている工場がメラノサイトと呼ばれる細胞です。
このメラノサイトの働きが低下して、メラニンを作れなくなるというのが、白髪になる原因のひとつです。
次に、メラノサイトがメラニンを作っても、それを毛髪のもととなる細胞、「毛母細胞」にうまく受け渡せなくなってしまうこと。これも白髪の原因になります。
こうしたことがなぜ起きるのか、よくわかっていない部分も多いのですが、考えられるのは遺伝、生活習慣の乱れ、紫外線、毛根近くの炎症などが影響しているのではないかといわれています。
さらに、近年は、精神的ストレスも大きな要因と考えられています。
セトッチ:ということは、こうしたことが原因で白髪になっている場合は、その原因を取り除いたり緩和したりすることで、弱っていた「メラニンを作り出す機能」や、「毛母細胞にメラニンを受け渡す機能」が回復すれば、次に生えてくる髪が黒くなる可能性があるということでしょうか?
大正製薬 谷:そういうことになります。
セトッチ:それはうれしいですね!
大正製薬 谷:ですが、「もう黒髪が生えてくることはない」という場合もあります。
それは、メラニンを作る工場であるメラノサイトを生み出す、「色素幹細胞」そのものがなくなってしまっている場合です。
この場合は、メラニンの工場であるメラノサイトを作れない、すなわち、髪の色のもとになるメラニンを作れないということですから、もう髪に色をつけることはできません。
そして、この色素幹細胞というのは、枯渇してしまったら、新たに作られることはありません。
ですから、ここまでの状態になると、もう黒髪が生えてくることはないということになります。
セトッチ:そう聞くと、なんだかちょっと悲しい気分になりますね…。
でも、なくなってしまったら終わり、ということは逆に、色素幹細胞が弱っているだけで、まだ「存在する」のであれば、なんとかなるということでしょうか?
大正製薬 谷:そうですね。これは、近年わかってきたことなのですが、色素幹細胞を下支えしている細胞があります。
それが、「毛包幹細胞」。毛包幹細胞は、色素幹細胞がなくならないようにサポートしてくれる細胞。
毛包幹細胞を正常に保つことが色素幹細胞を守るうえでも大切です。
毛包幹細胞は髪のもととなる「毛母細胞」を生み出す細胞であり、髪の成長に深く関与していますので、将来の薄毛対策においても重要な細胞です。
「酸化した皮脂」はダメージが大きい。優しく洗って清潔に
セトッチ:「毛包幹細胞」は白髪予防のカギを握っているのですね。
しかも、今後気になってくるであろう、薄毛の対策にも関与しているということですから、これは、美髪を目指す私たちとしては、しっかりケアしなければ!
毛包幹細胞を正常に保つために気をつけることはありますか?
大正製薬 谷:毛包幹細胞は頭皮と毛根の間にあります。
頭皮ケアをしっかりと行って、頭皮環境を良好に保つことがとても大切だと考えます。
セトッチ:毛包幹細胞のダメージになるものって、どんなものがありますか?
大正製薬 廣岡:これは私が説明しますね。
いろいろありますが、まず、気をつけたいのは「酸化した皮脂」です。
皮脂は、頭皮を外からのダメージから守る働きや、水分を保つ役割を持っているので、一概に悪いものではなく、ある程度は必要なものです。
でも、それが毛穴に詰まった状態で長く放置されていると、毛根にあるさまざまな細胞のダメージになりますので要注意です。
特に、酸化した皮脂が頭皮に与えるダメージは大きいです。
適切に洗髪して、毛穴に詰まった汚れとともに取り除きましょう。
セトッチ:皮脂が酸化するのはなぜですか?
大正製薬 廣岡:おもに紫外線の影響です。
頭皮に紫外線が当たると皮脂の酸化が進み、毛根の炎症につながります。
また、蒸れた状態が長時間続くのもあまりよくありません。
セトッチ:うーん難しい。頭皮に直射日光を当てたくないので帽子をかぶるのがいいのかなと思いましたが、暑い日に帽子をかぶっていると、かなりムシムシしてきて、汗もかきます。悩ましい。
大正製薬 廣岡:そうですね。日差しはできるだけ避けたほうがよいので、帽子をかぶるのは紫外線対策として効果的ですが、汗をかいたり汚れがついたりするのは日常生活では避けられないことですよね。長時間かぶりっぱなしではなく、適度に脱いで風を通すこと、また、適切に洗髪して、汚れが頭皮に残らないよう、落とすことを心がけるとよいと思います。
セトッチ:頭皮のダメージを避けるために、洗髪の際に気をつけるのはどんなことでしょうか?
大正製薬 廣岡:まずは、頭皮を傷つけないように爪を立てず、指の腹で優しく洗うことですね。
あとは、シャンプーやコンディショナーを頭皮に残さないよう、きちんとすすぐようにしましょう。
頭皮をケアする成分を配合しているシャンプーもあるので、そういったものを選ぶというのもひとつの方法です。
セトッチ:シャンプーやコンディショナーもいろいろな商品が出ていて、これもまた選ぶのが難しいんですよね~。
大正製薬 廣岡:年齢を重ねてくると、乾燥が気になるという方も多いですよね。
乾燥も頭皮にとっては大きなダメージになります。
パサつきやすい人、乾燥が気になる人は、洗浄力があまり高くない、皮脂を落としすぎないものを選ぶとよいと思います。
例えば、アミノ酸系シャンプーと呼ばれる、汚れを落とす成分である「界面活性剤」としてアミノ酸系のものを使用しているシャンプーを、使用するとよいと思います。
適度な洗浄力がありながら、頭皮への刺激が少ないものが多いのが特徴です。保湿成分を配合したものもあります。
頭皮マッサージで血流をアップして、白髪を予防! 顔のたるみ解消にも!
セトッチ:白髪予防には、頭皮を適切にケアすることが大切ということがよくわかりました!
白髪は加齢による部分が大きいようですが、エイジングケア商品を多く開発するイーラルさん、白髪を予防するよい方法は何かありますか?
イーラル 大原:そうですね。頭皮は毛髪が生える土台ですから、白髪の予防は、頭皮を整え、健康な黒髪が生えてきやすい状態を維持することから始まります。
セトッチ:やはり「頭皮」ですか!
イーラル 大原:また、「頭皮環境を整える」中でも、「血行促進」は最重要ポイントです。
というのは、私たちの体はほとんど細胞からできています。
そして、その細胞に栄養や水分を届けてくれるのが血液です。
健康な毛髪が育つために必要な栄養は、頭皮にある毛細血管を通して運ばれます。
食べ物を消化・吸収することで得た栄養を、スムーズに毛根に届けられるようにするには、頭皮の血流をよくすることが重要です。
ですから、頭皮マッサージはとても有効ですね。
血行を促し、栄養分をしっかりと毛母細胞へ送り届けることで、細胞を正常に機能させ、健康な美しい髪が作られるようになります。
ただし、マッサージによって、頭皮や毛髪に摩擦が起こることで、逆に刺激になってしまうこともあります。強すぎるマッサージはダメージにつながることもあるので気をつけてください。
セトッチ:具体的にはどんなふうにマッサージしたらよいでしょうか?
イーラル 大原:例えば、側頭部に指の腹を当てて頭皮を押さえ、前後左右に動かすような感じです。
頭皮が柔らかくなって、動くようになってくればよい状態です。
人間の頭頂部には大きな筋肉がないので、側頭部などの筋肉のあるところを中心にほぐすことで、効果的に血行を促すことができます。
セトッチ:(実際にやってみる)なんだか、気持ちいいですね…。頭がすっと軽くなる気がします。
イーラル 大原:頭皮マッサージには血行促進のほか、リラックス効果もあります。
それから、頭皮と顔の皮膚はつながっていて、いわば大きな一枚の皮膚。頭皮をケアすることは顔のケアにつながります。
「頭皮が1mm下がると、顔が3mmたるむ」ともいわれています。
側頭部から頭頂部に向かって、頭皮を引き上げるようにするといいですよ。
セトッチ:えぇ! そうなんですか!? それは大変。今すぐ頭皮ケアを始めなくては!
抗白髪成分を毛根に届けて、マッサージ効果をアップ
セトッチ: 頭皮マッサージをより効果的にして、白髪予防をランクアップする方法は何かありますか?
イーラル 大原:先ほどお話の出た、メラニンの合成やメラノサイトの機能が低下することで、「髪が色づくメカニズム」が弱っている場合は、その働きを整える「抗白髪成分」を毛根に届けてあげることが効果的です。
セトッチ:「抗白髪成分」なんていうものが存在するのですね! 初めて知りました。
イーラル 大原:髪に色をつけるために必要なのは、メラニン。
抗白髪成分も複数ありますが、そのメラニンを作ってくれる「メラノサイト」を活性化してくれるような成分のことです。
メラニンは、メラノサイトのなかでつくられますが、その過程でメラニンを合成する際の司令塔として働くのが「MITF遺伝子」です。
MITF遺伝子を増やすことで、しっかりとメラニンを作ることができます。
また、MITF遺伝子は、加齢により発現量が減少することがわかっています。
弊社では、MITF遺伝子を活性化する、コレウスホルスコリ根エキス+黒砂糖エキス(イーラルの特許技術)を配合した頭皮ケアエッセンスなどの商品を開発しています。
一緒に頭皮マッサージをすると、より効果的です。温めるような感覚で、手を押し当てながら塗布してみてください。
エッセンスを毛穴に浸透させるような気持ちで、じわっと。
セトッチ:白髪はもう年だから仕方がないと思っていましたけど、予防に有効な方法はいろいろあるのですね。
うれしくなってきました。少しでも白髪が減るよう、トライしてみます。
イーラル 大原:年齢を重ねると、必要な皮脂が足りないとか、水分が不足するなど、若い頃とは頭皮環境も変わってきます。
若い頃は毛髪や頭皮を守るこうした成分が自然と体で作られて機能してくれていましたが、どうしても年齢とともに減ってきてしまいます。
セトッチ:私たち、皮脂も水分も、何もかも足りてない~というのを日々、実感しています。
イーラル 大原:そうなると、白髪が増えたり、乾燥したり、静電気が起きやすくなって髪が傷みやすくなったり。いろいろなトラブルの原因になります。
こうした悩みに対応した製品がいろいろありますので、ぜひ試してみてください。
セトッチ:若いときと同じケア…ではだめなのですね。
体が大きく変わる更年期は、髪のケア製品を見直すタイミングなのかもしれません!
白髪予防のためだけではなく、いろいろなヘアケアを試してみたいです。
〔上の写真:イーラル プルミエ「 バランシングスカルプエッセンス」。保湿成分トウキ根エキス、プルーン分解物、ビワ葉エキスなどを配合。これら美容液成分が、潤いのある頭肌へと導く、頭肌エッセンス。頭皮に潤いを与え、健やかな頭皮とハリ・コシのある髪に導きます。サロン専売品〕
取材・文/瀬戸由美子