ブラッド・ピットとレオナルド・ディカプリオが親友を演じる映画なんて、想像したことなかったです。クェンティン・タランティーノ監督の超話題作“Once Upon a Time in Hollywood”(「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」)はブラッドとレオが主演、“世紀の共演”と呼ばれています。プレミア上映はカンヌ映画祭で行われました。
2人の演技はもちろん、登場人物すべてのキャスティングの素晴らしさが絶賛されています。タランティーノ監督9作目の「ワンス・アポン・ア・タイム…」は1969年が舞台、昔なつかしいハリウッドの、古き良き時代に生きた2人の男の話です。
現実とファンタジーを織り交ぜるのが得意、ザラザラハラハラした雰囲気とインパクトの強い映画を創るタランティーノ監督ですから、当然“美しい2人の男の話”ではありません。英語で言う“washed out (洗いざらした)”したハリウッドの中年男の話なんです。
ひとりは50年代の白黒テレビの時代から、ずっと西部劇のテレビ・スターだったリック・ダルトン(レオ)。
もうひとりは彼の何十年来のスタントマンであり親友でもあるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)。
2人の友情の物語でもあります。
レオもブラッドもそれぞれのキャラクターに親近感を持ったと言います。特にアルコール依存の問題を抱えた落ち目の元スター、リックを演じてるレオは「リックのことがよく分かった。『この男よく知ってる!!』と脚本を読んだ瞬間に親近感を持った」とカンヌ映画祭の会見で言ってました。「人気の絶頂にいればいるほど“次のステップは下るしかない”という恐怖心は誰の中にもある」と言うのです。
ブラッドは「クエンティンが創り上げたこの2つのキャラクターは実は1人の男なんだと僕は思う。人気スターだった自分が忘れられず、今を受け入れられないリック(レオ)と、“昔は昔、今は今”と自分の環境を受け入れて平和な心で生きるクリフ(ブラッド)は、実は1人の男の中の2人の自分なんだ」と分析します。
この映画の一部を、カンヌに行く直前のタランティーノ監督のインタビューのために見せてもらったのですが、実は完成した映画はまだ観ていません。7月26日のアメリカでの公開に合わせて完成版が観られます。ブラッドとレオにもその時までゆっくり会えません。彼らにロングインタビューした後で、また2人の近況を改めて紹介しますね。
映画の話を続けます。レオ&ブラッドの役柄はタランティーノ監督の創作人物ですが、この映画には実存した俳優たちも実名で登場します。例えばスティーブ・マックイーン(デミアン・ルイス)、ブルース・リー(マイク・モー)、シャロン・テート(マーゴ・ロビー)など。繋がりが不明の昔の故セレブ登場という感じですが、実はこの3人には実際に関係がありました。
殺人鬼チャールズ・マンソン(彼役も登場します)に惨殺されたシャロン・テートは、『サイレンサー 破壊部隊』という映画に出演していましたが、その映画でアクション指導をしたのが、なんとブルース・リーだったんです。彼らはこの映画でと知り合い、とても仲良しになったそうです。
「彼女はリーからマーシャルアーツ(武道)を習っていたんだ」とタランティーノ監督が教えてくれました。彼女が殺された時に夫のロマン・ポランスキー(存命)がブルース・リーが犯人ではないかと、ほんのちょっと疑ったと言われてるほどです。スティーブ・マックイーンも、ブルース・リーのマーシャルアーツの生徒で、仲が良かったのは知られてます。
タランティーノ監督らしいユーモアのある遊びなのが、映画では、シャロンとポランスキー夫妻が実際に住んでたビバリーヒルズの丘の上、ベネディクトキャニオンのCielo Driveという本当のアドレスの隣に、レオ演じるリック・ダルトンが住んでいるという設定です。
この映画はフィクションとノンフィクションが交差して織り上げられたタペストリーになってるんです。スティーブ・マックイーンがリック(レオ)とクリフ(ブラッド)にパーティで出会ってシャロン・テートのゴシップ話をしたり、ブルース・リーとスタントマンのクリフ(ブラッド)がマーシャルアーツの戦いを披露したり、と奇想天外なシーンが登場するのです。笑えますよね。
レオが「ブラッドとは年はちょっと違うけど(ブラッドが9歳上)、キャリアのスタートはほとんど同じ時期で(2人がスター街道を走り出したのが1990年代の初め)、同じ時代のハリウッドを体験し通過してサバイバルして来たから、言葉を必要としない理解と絆があった」と言ってます。
タランティーノ監督はこの2人を“正真正銘のムービースター“と呼んでます。お互いの演技の技術を一段持ち上げてくれた、素晴らしい共演だったのではないでしょうか…