パンデミック宣言から早2年以上経過。制限された生活が続く中で、心と体の不調を訴え睡眠障害に陥る人が増えています。その元凶は自律神経の乱れ。睡眠医学に詳しいハーバード大学客員教授・根来秀行さんに、ぐうたらライター・いしまるこが聞きました。
自律神経の疲弊が「コロナ不眠」を招く
いし 長期化でコロナ慣れしたようにも見えるけれど、じわじわと心身が蝕まれているような…。
根来 在宅時間が増えて不規則な生活に陥った人は、心も体も不安定になりやすく、慢性疲労や不定愁訴を訴える声が多いですね。
いし 自律神経失調症状ですよね。
根来 自律神経が疲弊しているんです。アクセル役の交感神経とブレーキ役の副交感神経のバランスが乱れ、自律神経の総合力であるトータルパワーも低下しています。そういう人たちは、判で押したように睡眠に問題が見られるんです。
いし 思い当たるなあ。
根来 自律神経も老化しますが、とりわけ副交感神経は衰えやすい。衰えにくい交感神経に偏って、然(しか)るべき時間に副交感神経が上がってこないことが一番の問題です。ブレーキを踏まずアクセルを踏みっぱなしのような状態ですから、当然、いろいろと不具合が出ます。
いし 然るべき時間とは?
根来 夜の睡眠時間です。本来、副交感神経は夜間に優位になり、毛細血管を緩めて心拍数や呼吸数を減らし、末端まで血液を巡らせます。すると栄養素やホルモン、免疫細胞が体の隅々にまで行き渡り、全身がメンテナンスされ、再生されます。ところが日中、交感神経が過剰に高ぶると、夕方になっても副交感神経にうまく切り替わらず、深く眠ることができません。
根来 実際、昨年実施したワーケーションの実証実験で、僕が開発したデバイスで自律神経を24時間測定したところ、ワーケーション前に睡眠に問題があった人は、睡眠中に副交感神経が十分上がらず、交感神経優位の傾向が見られました。
いし ワーケーションで改善が見られたんですか?
根来 ハイ。ワーケーション中は、その人に合った改善法を提案して試してもらったのですが、3日間で睡眠中の副交感神経がしっかり整い、睡眠の質が上がりました。オフィスに戻ったあともストレスが緩和するなど、9割以上の人にワーケーション後も効果を確認できています。
いし 悪い生活習慣がリセットされ、自律神経が改善したんですね。
睡眠中の副交感神経を高めればぐっすり眠れてコロナにも負けない!
根来 ポイントは一日の流れの中で交感神経と副交感神経のメリハリをつけること。日中は適度に体を動かし、交感神経を適度に優位にして心拍数を上げ、体の中心部で体を動かしている筋肉や脳、心肺に血液を集め活動モードにします。夕方以降は副交感神経の働きをじゃまする行動を避け、寝る数時間前からはリラックスして過ごす工夫が必要です。
根来 自律神経は免疫細胞もコントロールしていて、副交感神経はウイルスと戦うリンパ球を支配しています。副交感神経の働きがよくなれば、眠っている間にリンパ球が活性化して、新型コロナなどのウイルスに対する抵抗力も高まります。結果的に、がん細胞の駆逐にもつながり、病気になりにくい体になりますよ。
根来秀行さん
Hideyuki Negoro
ハーバード大学医学部客員教授(Harvard PKD Center Collaborator, Visiting Professor)、ソルボンヌ大学医学部客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授、信州大学特任教授、事業構想大学院大学理事・教授。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など。著書に『ハーバード&ソルボンヌ大学 Dr.根来の特別授業 病まないための細胞呼吸レッスン』『ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業 「毛細血管」は増やすが勝ち!』(ともに集英社)など
いしまるこ(いし)
日中、仕事をしていると眠くなるのに、夜の寝つきは悪いぐうたらライター
撮影/角守裕二 イラスト/浅生ハルミン 構成・原文/石丸久美子