骨粗しょう症によって起こる脆弱性骨折をすると、「脆弱性骨折の連鎖」が起きやすい
一度骨折をすると、骨折を繰り返しやすくなるというのは本当なのでしょうか?
「確かに、一度骨折をすると骨折を繰り返しやすくなると言えると思います。
骨粗しょう症によって起こる、ちょっとした外力が原因で発生する骨折を“脆弱性(ぜいじゃくせい)骨折”といいます。
脆弱性骨折をしやすい部分に、背骨、足の付け根(大腿骨近位部)、手首、肩の付け根などがあります。
脆弱性骨折をする人は、全身の骨の脆弱性が基盤にあるので、最初の骨折が次の骨折を招く“脆弱性骨折の連鎖”をもたらしやすくなります。
実際、骨折の危険性は、加齢や骨密度の減少に加えて、脆弱性骨折の既往(過去に骨折したこと)によって上昇することが明らかになっています」(伊藤薫子先生)
「海外の研究では、手首の骨折〈橈骨遠位端(とうこつえんいたん)骨折〉の既往は、手首の骨折、脊椎(せきつい)椎体骨折、大腿骨近位部骨折のリスクをそれぞれ、3.3倍、1.7倍、1.9倍に上昇させ、脊椎椎体骨折の既往は、それぞれの骨折のリスクを1.4倍、4.4倍、2.3倍に上昇させるというデータがあります。
また、大腿骨近位部骨折をすると、反対側の大腿骨近位部骨折のリスクを4〜10倍にまで高めるともいわれています。
脊椎椎体骨折は、骨折数が増えるほど、その後の骨折が増えることや、骨折部位のつぶれ方がひどいほど、その後の骨折の危険性が高いことも明らかになっています」
「骨折連鎖」は、骨折による運動機能の低下からくる転倒リスクのアップや、骨の脆弱性が高まることなどが原因
では、骨折を繰り返してしまう原因とは?
「脆弱性骨折の連鎖は、“骨折のドミノ現象”とも呼ばれています。
原因については、はっきりとはわかっていませんが、骨折後は動きが制限されることで筋力が落ちて運動機能が低下するため、転倒のリスクが高まることがひとつの原因として考えられます。
また、活動量が低下して荷重など骨への力学的刺激が減少することで、さらなる骨の脆弱化をもたらすので、これらの原因が複合的に組み合わさって、骨折連鎖を引き起こすのではないかと考えられています。
最初の骨折としては、40代、50代は、ベッドの脚にぶつけて足指を骨折したり、咳をしたときなどに肋骨を骨折したりする人が多いようです。
また、60代は転んで手をついたときなどに手首を骨折することが多く、70代からは大腿骨骨折や脊椎(背骨のこと)の圧迫骨折が多いようです。
特に高齢者は、脊椎がつぶれて圧迫骨折をして、それをきっかけに、脊椎のほかの場所もつぶれやすくなり、また圧迫骨折をして…という脊椎の骨折連鎖が多いです。
そうなると背中が曲がってしまってなかなか戻らなくなり、真っすぐに歩けなくなってしまうこともあるので要注意です」
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骨折連鎖を防ぐには、早めの骨密度検査と治療に、食事と運動を組み合わせることがポイント
とにかく大事なのは、一度目の骨折をしないように気をつけること。
そのために必要なこととは?
「やはり大事なのは、40代になったら一度骨密度検査を受けて、骨密度が低下していたら早めに治療をすることです。
骨折抑制効果が証明されている骨粗しょう症治療薬で早めに治療をすることで、骨折のリスクを下げることができます。
また、治療に加えて、骨に必要な栄養を食事でしっかりとることと、骨に刺激を与える運動を取り入れることもポイントです。
1分程度、片足立ちをするような運動も取り入れると、段差をまたぐ筋力がつくので、つまずいて転倒することも防げます。
早い段階でこれらを始めておけば、最初の骨折を防ぐことができます。
また、骨折をしてしまった場合は、病院で骨折の治療をするだけではなく、骨密度検査を受けておくことが大事。
そうしないと、全身の骨がもろくなっていることに気づけず、例えば足の指を骨折して、その治療はしたものの、今度は脊椎の圧迫骨折をしてしまった…というような、骨折連鎖を招いてしまいます。
40代以上で骨折をしたら、骨密度検査も行ってみて、低下していたら早めに治療を始めましょう」
今と将来のQOL(生活の質)を大きく下げてしまう骨折。
骨折連鎖を未然に防ぐために、今のうちから上記のような対策を心がけて!
【教えていただいた方】

いとう・かおるこ●「女性のための整形外科 かおるこHappyクリニック」院長。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医。東京女子医科大学医学部卒業後、慶應義塾大学医学部整形外科学教室へ入局。関連病院勤務、アメリカ留学を経て、慶應義塾大学病院骨粗しょう症外来を担当。2021年7月、東京・帝国ホテル内に「女性のための整形外科 かおるこHappyクリニック」を開院。「いくつになっても背筋を伸ばしてハイヒール」をモットーに、女性一人一人の骨と関節の悩みに寄り添う診療に定評がある。院長が伴走するオンライン講座「4カ月の骨活プログラム」も全国から受講されている。
写真/Shutterstock 取材・文/和田美穂
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