更年期症状のおよそ半数は「心の症状」が現れる
更年期症状の内容や現れ方は人それぞれですが、大まかにいうと「体」に関係するものと、「心(精神)」に関係するものに分かれ、吉形玲美先生によるとその割合はほぼ半々だといいます。
「閉経に向けて女性ホルモンのひとつである『エストロゲン(卵胞ホルモン)』の分泌量が乱高下し始めると、自律神経のバランスが乱れます。それによって感情のコントロールが難しくなり、人によっては怒りっぽくなったり落ち込みやすくなったりと、体調だけでなく性格にも変化が現れてくるのです。診察室で怒りをぶつける人、涙を流す人も少なくありません」(吉形玲美先生)
そして症状が現れるのは、体の不調→心の不調の順になることが多いのだそう。
「傾向としては、月経不順が始まる頃から『体の不調』を感じ始め、そのあとから『心の不調』が現れることが多いようです。また、体の不調を我慢しすぎたり放置したりしていると、心の不調が強くなりやすい傾向もみられます」
エストロゲンの減少に伴い、気持ちを安定させるホルモン、セロトニンも低下
更年期に感情が不安定になりやすいもうひとつの要因が、セロトニン分泌量の低下。
「セロトニンは、幸せを感じる、気持ちを安定させる、表情を豊かにするなどの働きを持つホルモンです。エストロゲンはセロトニンの分泌にもかかわっているので、エストロゲンの分泌量が低下することでセロトニンの生成も低下するのです」
更年期症状としてよく挙げられる落ち込みや不安、イライラや不眠といった心の不調は、HRTはもちろん、エクオールサプリメントでも期待できるのだとか。
「2014年に、HRTとエクオールサプリメントによる更年期症状改善の比較研究を行った結果、私たちの患者さんのデータでは、発汗やほてりなど体に強い症状がある人にはHRTが、イライラや不安、倦怠感など心身症状が複数ある人にはエクオールが効く傾向がみられました。
ただ、更年期世代の患者さんの中には体の症状がほとんどなく、心の不調が前面に出る人もいます。その場合は、更年期障害よりも精神疾患が考えられ、最初から『抗うつ剤』や『精神安定剤』『睡眠導入剤』などを使って治療を始めると早く改善する場合もあります」
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心の不調が強い場合はHRTと抗うつ剤を併用するケースも
「抗うつ剤」と聞くと抵抗を感じる人がいるかもしれませんが、女性の乳がん罹患率が日本よりも高い欧米では、HRTの代替療法のひとつとして比較的メジャーな治療法。精神面の不調だけでなく、ほてりなど体の症状の改善にも使用されています。
「抗うつ剤は依存性がなく、HRTと併用できるので、婦人科診療でも処方する場合があります。ここ20年くらいで種類も増え、処方量の調節もしやすくなっています。
なんとなくメンタルの不調を自覚しているけれど、心療内科や精神科を受診することに抵抗を感じる人は、婦人科の医師に相談するのもひとつの方法です。
日頃から、『こんなときに、こんな不調が出やすい』といった具体的なシチュエーションやエピソードをメモしておくと、診察もスムーズ。抗うつ剤と同じく、精神安定剤や睡眠導入剤もHRTとの併用が可能です」
ただし、抗うつ剤は突然中止すると症状のぶり返しや悪化があり得るため、症状の改善を自覚していても投与量を徐々に減らしていくなどの調節が必要です。治療は必ず医師の指示に従いましょう。
「更年期症状に含まれる落ち込みや不安、不眠などのほかに、日中に眠くてたまらない、気持ちが落ち着かず身の置きどころがない、食欲がない(食べることに興味が湧かない)、なぜだか悲しくて涙が止まらない、絶望感を感じる、などの症状がある場合は、うつ病の可能性があります。
その場合は、婦人科よりも先に精神科を受診することをおすすめします」
【教えていただいた方】

浜松町ハマサイトクリニック特別顧問。大学病院で医療の最前線に立ち、女性医療・更年期医療のさまざまな臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、現クリニックへ。更年期、妊活、月経不順など女性の体のホルモンマネジメントが得意。著書に『40代から始めよう! 閉経マネジメント』(講談社)。
イラスト/sino 取材・文/国分美由紀
参考資料/『40代から始めよう! 閉経マネジメント』吉形玲美・著¥1,650/講談社
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