能登半島地震でもトイレは大きな問題に
2024年元日に起きた能登半島地震でも、避難所の仮設トイレが汚物であふれて使えなくなる、ひとつの携帯トイレを複数人で使う、といったトイレ問題が起きました。
「人間はどんな状況であっても排泄を我慢することはできません。
東日本大震災のときも、発生から3時間以内に3割の人がトイレに行きたくなったという報告があります。
トイレの回数は1人当たり1日に7~8回といわれます。ということは、例えば4人家族なら1日最低28回分の用意が必要。40代~50代で頻尿の症状がある人は、もっと増えるでしょう。
前回ご紹介した『地震10秒診断』をやれば、すぐにその地域で震度6以上の地震が起こったときに予測される断水日数が出るので、その日数分を用意するとなるとかなりの数を準備しないといけないことがわかると思います。
トイレ環境が悪いために、排泄の回数を減らそうと水分の摂取を控えると血栓や膀胱炎などのリスクが高くなり、とても危険です。平常時でも、汚いトイレに入るのは無理という女性は多いはず。
災害時のトイレ問題は、真っ先に考えないといけないことなんです」(辻直美さん)
断水したらため水でトイレを流してはダメ!
まず前提として知っておきたいのが、大きな地震や水害が起きたときには、家のトイレは使えないということ。
「今の40代~50代は子どもの頃『断水したら風呂場のため水を使ってトイレを流す』と教わった人も多いはず。
でもあれは絶対にやってはだめ! 国土交通省もそう言っています。
マンションなどの集合住宅では、配管の途中が破損していると上の階で流した汚物を含んだ水が下の階の天井や壁に染み出てしまったり、破損していなくても上の各部屋からの汚水が下の階にたまり、下の階のトイレから汚水があふれ出てしまうことも。
ニオイもひどく、不衛生で、実際訴訟問題にまでなった事例がたくさんあります。
戸建ての場合も同じで、流れていかない汚水がたまりすぎると、逆戻りして便器からあふれ出てきます。
『汚物が目の前から消えればOK』とばかりに、無理に流してしまうのは絶対にNGなのです」
災害用トイレはコスパと使い勝手が重要
今はさまざまな種類の災害用トイレが販売されているので、そうしたものを利用するのもひとつの手。でもコスパや使い勝手で課題もあります。
「例えば1個100円で売っているものでも、4人家族で2週間分用意しようと思ったら5万円近くかかってしまう。
『片手で簡単』と書いてある携帯トイレなどもありますが、片手で持ってあてがって排泄…なんて女性には難しい。ましてや大のほうなら体勢的にも到底無理です。
実際に被災したときにパッケージを開けてみて『あ、できない』となったら備えている意味がありません。
だからトイレを準備するときはコスパと併せて、実際に使えるのかという点まで考える必要があります。
『平常時に試してみて大丈夫かどうか』というところまでやってみることが大切です」
ペットシーツを使った災害用トイレならコスパ◎
被災地での豊富な経験や自身で研究した結果から、辻さんが最もおすすめするのはペットシーツを利用した災害用トイレ。
「吸水性に優れた高分子ポリマーで排泄物をしっかりキャッチしてくれ、消臭力も高い。
サイズやものにもよりますが100枚入って1200円程度とコスパもよく、家のトイレを使ってできるので、普段に近い環境で排泄できるのも大きなメリットです」
使うものはペットシーツ、45Lゴミ袋、新聞紙の3つ。作り方も簡単です。
1.トイレの便座を上げてゴミ袋を2 枚重ねてかぶせる。
2.吸収面が上になるようにペットシーツをたたみ、水がたまるくぼみに押し込み、便座を下ろして出来上がり。
3.用を足したら、ちぎった新聞紙を排泄物の上にかぶせ、上のゴミ袋だけを外して口を結ぶ。
4.またゴミ袋を1 枚かぶせ、たたんだペットシーツをくぼみに押し込み…と同じことを繰り返す。
ペットシーツは種類が豊富ですが、災害用トイレにおすすめなのは「厚手レギュラーサイズ」。
「薄型、小型犬用などでは吸水力が不十分ですし、ワイドサイズは大きいけれど枚数が少なくコスパが悪いため、『厚手レギュラーサイズ』がベストです。
ペットシーツは、生理用ナプキンや子ども用のおむつのように水分を瞬間的に吸収はしません。350ml~400mlは2分ほど、500mlは5分ほどかけてじわじわと吸収していきます。
まずは少量を買って実際に使ってみて、ご自分やご家族にとって使い勝手のよいものを備蓄してください。
ライフラインが止まってゴミ収集もストップしてしまうと、排泄物をしばらく自宅に置く必要が出ます。ニオイ対策も併せて考えておくといいですね」
【教えていただいた方】
一般社団法人育母塾代表理事。1991年、看護師免許取得。1993年「国境なき医師団」の活動で上海に赴任。帰国後、阪神・淡路大震災で実家が全壊したのを機に災害医療に目覚める。以降、国際緊急援助隊医療チーム(JMTDR)において国内外の被災地で活動。現在はフリーランスのナースとして講演、防災教育、被災地支援活動を行う。『レスキューナースが教えるプチプラ防災』(扶桑社)ほか、防災関連の著書多数。
イラスト/ミヤウチミホ 取材・文/遊佐信子