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幸せなコロリのために。健康寿命を保つため「3つの穴」のQOLをキープしたい!

“死”に直面するのは誰しも苦手。とはいえ50代、人生の後半戦を迎えて、自分の「幸せなコロリ」について考えておくのも悪くありません。人生の先輩でもある産婦人科医の松峯寿美先生へのインタビュー、第2回は産婦人科医ならではの「健康寿命」キープ法についてです。

東峯婦人クリニックを開業する松峯寿美先生は、76歳を迎えた現在も、診察室で妊婦さんや更年期の患者さんたちと向き合う日々。この道40年以上の大ベテランです。テキパキとした身のこなしで、10年前と変わらない若さを保っていますが、健康維持のためにどんなことに気をつけているのでしょうか。

 

「私が気をつけているのは、大きな病気をしないように、年に1回の健康診断を欠かさず受けることです。実は2年前、心臓カテーテルの治療を受けたんですよ」と松峯先生。自覚症状がなかったのに、健康診断で心臓を取り巻く血管に細くなっている部分が見つかり、血管内にカテーテルを挿入し、狭窄(きょうさく)部分を広げるステント装着処置を受けたそう。

 

「もしも何も知らずにいたら、この先、心筋梗塞を引き起こす可能性もあったわけですから、早めに予防できてよかったと思っています」

 

50代以降は定期的にレディース検診を

 

閉経前後は、多くの人がホットフラッシュなどの不快症状に見舞われますが、この時期は、動脈硬化や高血圧、糖尿病など、生活習慣病の発症リスクが忍び寄る年頃でもあります。なぜなら〈人生前半の生活習慣の総決算〉として病気が現れるのが、ちょうど閉経前後と重なるから。

 

「『仕事や親の介護が忙しい』というのを言い訳にして、健康診断を受けそびれている人たちが少なくありませんが、大きな病気をしたら仕事も介護もできなくなってしまいます。

 

もしものときの早期発見、早期治療につなげるためにも、1年に1回の健康診断をきちんと受けましょう。『今日のこの日を元気に迎えることができてよかった。来年までの1年間を大切に生きていこう』という気持ちで健康診断を受けていただければと思います」

 

また、女性ホルモンのバランスが大きく変動するため、女性特有の病気を発症しやすい時期でもあります。閉経後は卵巣からエストロゲンを分泌する働きがストップしますが、副腎で産生される男性ホルモンを材料に、体内の脂肪細胞から少量ながらもエストロゲンが作られる仕組みがあり、乳がん、子宮体がんの発症リスクとなるのです。

 

「乳がんや子宮体がんのチェックには、自治体の婦人科検診を活用しつつ、かかりつけの婦人科でレディース検診を受けるのをおすすめします。1年に1度、誕生月にレディース検診を受けて、自分の健康状態を把握しておくといいですね。検査結果を比較検討できるように、毎回同じ医療機関で受けるとよいでしょう」

婦人科検診を受診中の女性

 

「歩く力」と「排泄する力」を死ぬまでキープしたい!

 

今や日本人の平均寿命が延びていますが、元気に生活できる健康寿命は別。5 0歳前後から体づくりを始めることが、この先の健康寿命を左右します。

 

「誰もがいずれは介護を受ける可能性がありますが、『足腰の筋力と排泄のQOLを死ぬまでキープしたい』というのが、私が大切にしているテーマ。自分の足でしっかりと歩いて、自分の口でしっかりと食べて味わって、スムーズに排泄することが大事です」

 

実は松峯先生自身、夫が亡くなった直後に食べ物が喉を通らず、自宅に引きこもった経験があります。ある日、友だちに誘われ、久々に美術館に出かけたところ、なんと地下鉄の通路で息切れ。「筋肉が減っている!このままではフレイルになりかねない!」と痛感したことがあるのです。

 

「そんな実体験もあって、『自分の足で歩くこと』と『しっかりと食べて、出すこと』が健康寿命に直結すると確信しました」

 

その後、「しっかりと食べて出す」サイクルがスムーズになるにつれ、体力と気力が回復。しばらくお休みしていた日本舞踊のお稽古を再開しました。

 

「日本舞踊はゆっくりとした動きながら、体幹部が鍛えられ、骨盤底筋や足腰の筋力アップにもなるんです。40代から趣味で続けているおかげで、尿もれなどのトラブルを経験したことがありませんし、私の元気の源になっています」

産婦人科医松峯先生の日舞写真

↑公演時の松峯先生の写真。あでやかで美しい!

 

〈3つの穴〉を健やかに保ち、骨盤臓器脱を予防しよう

 

「食べたら出す」というスムーズな排泄は、〈新陳代謝のよい体づくり〉にも関わります。では、排泄する力を守るには、どうしたらよいのでしょうか。

 

「私たちには腟、尿道口、肛門という〈3つの穴(排泄口)〉があり、とりわけ、真ん中の腟の筋力を鍛えることがカギとなります。セックスしても、しなくても、腟は女性にとって大切な場所。腟が緩むと、尿道口をキュッと締める尿道括約筋の緩みを招き、尿もれしやすくなるばかりか、直腸の排泄力も下がるからです」

 

そのうえ、腟が緩むと腟内に子宮が下がってくる子宮下垂や、腟の外に子宮が飛び出してしまう子宮脱を招くこともあるのです。また、下垂した膀胱や直腸が腟壁を圧迫して、「膀胱瘤」「直腸瘤」というこぶを作り、そのこぶが大きくなると、腟の外にピンポン玉のように飛び出してしまう心配が!これらは「骨盤臓器脱」と呼ばれ、60~70歳以降に増加する女性特有のトラブル。命に関わることはありませんが、腟からピンポン玉のようなものがはみ出してしまうと、女性として、自尊心がいたく傷ついてしまいます。

 

「私のクリニックでは、骨盤底筋や腟の筋肉に振動を与えて若返らせる『エムセラ(EMSELLA)』という椅子型医療機器を導入しています。腹圧がかかったときに尿がもれる『腹圧性尿失禁』に悩む人の場合、『エムセラ』に座るだけで骨盤底筋が鍛えられます。尿道口、腟口、肛門という〈3つの穴〉の締まりがよくなると、セックスの感度もよくなるようですよ」

エムセラ

↑2020年に発売された、骨盤底筋群を鍛える医療機器「エムセラ」

 

「エムセラ」のリズミカルな刺激は、自分で行う「腟トレ」や「骨盤底筋トレーニング」の、1万倍以上の効果が得られるとされています。日本ではまだ保険適用ではありませんが、アメリカやEUなど25カ国で認可が下りており、セクシャルウェルネスや尿もれ、排便障害、骨盤臓器脱などに効果がある治療法として注目されています。手術が必要な人が、手術しなくてすむ場合もあるのです。

 

「いつまでも自力で排泄するQOLを守るためにも、今こそが〈3つの穴〉のケアの始め時。女性ホルモンが枯渇する50歳以降は外陰部の皮膚が乾燥しやすくなるので、入浴後には保湿ケアをしてから、腟をキュッと締める骨盤底筋トレーニングを行うと効果的です。皮膚がしっとりとすると、3つの穴をキュッと締める筋肉の動きがよくなりますからね。筋肉は裏切りません。生きている限り鍛えることができますよ!」

 

お話を伺ったのは

松峯寿美
松峯寿美さん
東峯婦人クリニック名誉院長
公式サイトを見る

日本産婦人科学会専門医。医学博士。妊娠・出産はもちろん、思春期、更年期、老年期の女性に寄り添い、40年以上診療を続けている。著書に『婦人科医が不安と疑問にやさしく答える 更年期の処方箋』(ナツメ社)、『50歳からの婦人科 こころとからだのセルフケア』(高橋書店)など多数。

 

イラスト/内藤しなこ 取材・文/大石久恵

 

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