連載担当Dr.根来番のぐうたらライター・いしまるこが、ハーバード大学医学部客員教授・根来秀行さんにインタビュー。今回は、うつの脱却に必要な行動と睡眠についてになります。
前回までのインタビューは下のリンクをご参照ください。
【特集】ハーバード大学Dr.根来の体内向上プロジェクト
うつ病の人は自律神経のトータルパワーが低い
根来 ハーバードの睡眠医学教室には、健康な被験者がいて、24時間観察できる睡眠実験室があります。採血のための管や脳波、体温などのセンサーをつないだままで、様々な身体情報を入手出来ます。また、中央の管理センターで管理できるようになっています。
いし アメリカ人の睡眠傾向は?
根来 多いのは、副交感神経が優位になるべき夜になっても活動しているため、夜が更けても交感神経が下がらず、心身の興奮状態が続いて眠りにくくなっているパターン。これは日本でもいちばん多い現代人の睡眠傾向です。
この状態が続くとメンタルに不調が出てさらに眠れなくなり、交感神経も副交感神経も両方下がって自律神経のトータルパワーが落ちてしまう。うつ病の人はトータルパワーが極端に低いです。
いし コロナうつも増えていますが…。
根来 僕の外来でも本当に多いです。不定愁訴を訴えて来られるのですが、自律神経や毛細血管の状態を解析すると、問題点が少なからずあり、メンタルに影響が及んでいます。そういう人たちは、必ず睡眠の問題をともなっています。
いし 不安が不眠の引き金ですか?
根来 コロナへの不安はひとつのきっかけで、最大の原因はリモートワークで動かなくなったことだと思います。体を動かさないから日中の交感神経が健康的に上がらず、夜になっても副交感神経が上がりにくく、そこに不安な心理状態などをベースとしたストレスが加わって良質な睡眠をとりにくくなり、自律神経が不安定になって、更には自律神経のパワーも下がっている感じです。そういう人が増えています。
いし 元凶は運動不足だったとは!
根来 今はスマホで歩数が自動的に測れるので、そういう状態の方の歩数を診察時に見せてもらうと、たいてい1日平均2000歩ほど。まずは8000歩を目安に歩くことです。
あとは、日中に1時間に1回程度の腹式呼吸法を取り入れることによって、副交感神経が適度に上がり、交感神経の上がりすぎを抑えます
リモートワークでデスクワークが増えて猫背になりがちなのを、リセットする意味もあります。姿勢を正せるし、集中力も高まります。
続けていると横隔膜がしっかり動くようになって、呼吸も深くなります。
ウォーキングをすることによって適度に交感神経を保ち、呼吸法を適宜行うことで副交感神経を引き上げる。このバランスで、薬を使わなくても、うつから抜け出せた人は多いですよ。
いし 寝なきゃと思うと余計眠れず、睡眠薬に頼りたくもなるけれど。
根来 睡眠薬はお酒と同じで意識レベルを下げて気絶させるようなもの。それに頼らないと眠れないのは、体内リズムが狂っている証拠です。まずは自律神経の動きを見直すことが先決です。
寝る前のマインドフルネスは、脳のアイドリング状態を鎮めます。コツは今に集中すること。呼吸を吸って吐くときの鼻の通り道や、布団と背中の接地面だけに集中して行うといいですよ。
いし ご自身の睡眠は? 夜中に海外とやりとりをすることも多いですよね。
根来 そうですね。寝るのが夜中の3時4時という日が続くこともあります。そういうときも、朝7時にいったん起きて、二度寝するなら昼12時までに、最大90分までが原則。食べる時間も朝昼晩一定にして、体内時計を調整するようにしています。
いし ますますお忙しいのに、なぜそんなに爽やかでいられるんです?
根来 ネガティブなことって人生にはえてして起こるもの。でもそれは、本当の意味でポジティブに向かうための糧になる。聞こえがいいけれど、僕はずっとそう思ってきたんですよ(笑)。大変なときはなぜ大変なのか考えて、解決するためのアイデアが出てきたらそこを探り、それがいい方向に行けばハッピーになる。そう考えると、試行錯誤のプロセスもわりと楽しいんです。
リモートワークで運動不足がコロナうつを招く!
通勤ラッシュを免れ、楽になったと思いきや、運動不足に陥る人続出。この状況が自律神経を乱し、夜になっても交感神経が下がらず不眠を招き、コロナうつの呼び水に。日中は活動量を増やし、呼吸法を適宜取り入れること、寝る前には腹式呼吸やマインドフルネスを行うことを心がけ、自律神経の調節を。
毎日のウォーキングでハッピーホルモンを出す!
朝昼晩、いつでもいいので1日8000歩を目標にウォーキングの習慣を。「イチニ、イチニ」とリズミカルに歩くと、メラトニンの原料でハッピーホルモンでもあるセロトニンが活性化し、不安も薄らぎ安眠につながります。
根来秀行教授の昨年の平均歩数はなんと! 1日11408歩‼
通常業務にコロナの治療薬研究・開発も加わり、超多忙な根来秀行教授の運動時間捻出法はとってもシンプル。「移動を徒歩にしたり、大学構内を歩き回ったり、とにかく歩くことを心がけています」。やればできるんですね…。
根来秀行さん
Hideyuki Negoro
1967年生まれ。医師、医学博士。ハーバード大学医学部PKD Center Visiting Professor、ソルボンヌ大学医学部客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授、杏林大学医学部客員教授、信州大学特任教授、事業構想大学院大学理事・教授、社会情報大学理事。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など。最先端の臨床・研究・医学教育の分野で国際的に活躍中。本連載から生まれた『ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業「毛細血管」は増やすが勝ち!』『ハーバード&ソルボンヌ大学 Dr.根来の特別授業 病まないための細胞呼吸レッスン』(ともに集英社)が好評発売中
いしまるこ
いつまででも寝ていたいぐうたらライター。寝つきが悪く、つい夜更かしして、朝からどんよりしがち
撮影/角守裕二 イラスト/浅生ハルミン 取材・原文/石丸久美子