怒りはライターの火花とガスにたとえられる
同じようなことが起こっても、怒りが込み上げて爆発するときと、なんとなくさらりと流せるときがあります。いったい怒りとはどのように生まれるのでしょうか?
「怒りは防衛本能で、大切なものを守るための感情です。その大切なものが脅かされると、怒りの感情が湧きます。それは“大切な人”に限らず、自分が信じている“大切なこと=『~すべき』という価値観”が裏切られたときに起こります。
例えば、待ち合わせた相手がなんの連絡もなしに、時間になっても来ないとします。このとき、遅れる“べき”ではないし、遅れるなら連絡する“べき”だという思いが強いと、その『~すべき』が裏切られたことに強い怒りを感じます。
しかし、この『~すべき』が裏切られても、『ま、いっか』と軽く流せることもあれば、怒りとして爆発してしまうこともあります。そのメカニズムはよくライターにたとえられます。
ライターは着火スイッチをカチッと押して火花を散らし、そこにガスが引火することで炎が出ます。この着火スイッチに当たるのが、自分の信じる『~すべき』が裏切られたこと、引火するガスは『マイナスな感情や状態』に当たります。
マイナスの感情は寂しい、悲しい、苦しい、不安、孤独など。マイナスの状態は疲れやストレスがたまっている、寝不足、空腹、体の具合が悪いなどです。
たとえ、『~すべき』が裏切られてイラッとしても、そこに『マイナスの感情や状態=ガス』がなければ、引火しないので、大きな怒りの炎になりません」(安藤俊介さん)
なるほど、その着火スイッチとガスの両方がそろわなければ、大きな怒りにはならないわけです。
自己肯定感が低い人は怒りやすい
実際に世の中には“怒りっぽい人”と“あまり怒らない人”がいます。では、その違いはどこで生まれるのでしょうか?
「怒りは防衛感情で、怒ることで大切なものを守ろうとする行為・感情です。大切なものには家族や仲間だけでなく、その人の価値観や考え、立場、プライドといったものもあります。守らなければならないものが多い人は当然、怒ることが増えます。
なので『~すべき』という考えや価値観が強い人は、それが裏切られることも多いので、怒りやすくなります。
またもうひとつ、怒りっぽい人の特徴に、自己肯定感が低いことが挙げられます。それは自己肯定感が低い人は、守らなければいけないと思うことが多い傾向があるからです。
例えば、仕事でささいなミスを指摘されたとき、自分のミスを認めずにムキになることがあります。これは認めてしまうと自分の価値が下がると思うからです。ある意味、自分に自信がないことの裏返しともいえます。
自己肯定感が高ければ、小さなミスなど素直に認めることができます。なぜなら、そのくらいのことで自分の価値が下がるとは思わないからです。
また同じことが起きても、人により受け取り方が違います。このミスの指摘についても、それを『自分のためにあえて言ってくれている』ととらえる人もいれば、『攻撃された』と考える人もいるでしょう。
自己肯定感が低い人はさまざまなことを『自分に対する攻撃』としてとらえる傾向があります。攻撃されれば、それから身を守るために怒りの感情が湧いてくるのです」
自己肯定感が低くて怒る人には10タイプがあります。あなたは大丈夫?
1 すぐにダメ出しする
人を褒めるよりも、悪いところを見つけて減点する癖がある。
2 人を褒めない
「できていることが当たり前」が基準になっている。
3 マウンティングする
常に自分は相手よりも優位であることを示そうとする。
4 謝らない・謝れない
謝ったら負け、謝ることで自分の価値が下がると思っている。
5 不機嫌アピールをする
「話しかけないで!」と態度や雰囲気で出す。
6 論破しようとする
建設的な議論よりも、相手の非を認めさせることに価値があると考える。
7 あおり運転をする
乗っている車や運転技術の優劣に自分の価値を見いだす。
8 陰口を言う
面と向かって意見を言う勇気がなかったり、まず他人の不幸を考えがち。
9 自分のことではないのにムキになる
自分と関係ないのに、自らからぶつかってしまう傾向がある。
10 価値観を押しつける
自分の価値観がすべてだと思い込み、多様性の時代についていけない。
自己肯定感が低い人は、守らなければならないと思っていること(実際は必要がないこともあります)が多いため、あちらこちらで無駄に怒りを振りまいている可能性があります。
「自己肯定感を上げるのも下げるのも自分次第です。そこに大きくかかわってくるのが『~すべき』という価値観。これを見直していくことが、アンガーマネジメントにつながっていきます」
【教えていただいた方】
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。新潟産業大学客員教授。怒りの感情と上手に付き合う理論と技術をアメリカから導入。教育現場から企業まで幅広く講演、研修、セミナー、コーチングなどを行う。ナショナルアンガーマネジメント協会では世界で15名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルの唯一のアジア人。『[図解]アンガーマネジメント超入門 怒りが消える心のトレーニング』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。
イラスト/カケハタリョウ 取材・文/山村浩子