お悩み①
どんどん太って体型が母に似てきました。何をしても痩せません。この年齢では、もう何をしても無理なのでしょうか?(57歳・パート)
樫出さんの回答
代謝を上げ、「脾
」をいたわる生活を
まずは代謝を上げることから始めましょう
以前のようにダイエットをしても痩せなくなった」と言う更年期世代の方は多いですね。
この年代は代謝の低下に加え、自律神経も乱れがちになるため、今までやっていたトレーニングや食事制限では体重が落ちにくくなります。
なかでも痩せにくいのは冷え症の人。
よく「私は手も顔もポカポカして温かいので、冷え症ではありません」と言う人がいますが、そういう人もお腹や腰を触ると冷たいんです。
つまり内臓が冷えている。
その場合は内臓を温めて代謝を上げることが先決なので、冷たい飲み物・食べ物を控え、適度に体を動かすことから始めてほしいと思います。
私は患者さんに、「まずは簡単な運動を毎日2つだけ実践してみてください」とアドバイスしています。
1つめは「かかとの上げ下げ」
椅子やテーブルなどにつかまって軽くつま先立ちになる→ストンとかかとを落とす、を60回繰り返します。ふくらはぎは「第2の心臓」としてポンプの役割を果たしている場所。ここを動かすことで血行が促進され、代謝がアップします。
もう1つは、寝る前にベッドの上で行う「股関節のストレッチ」
まず仰向けに寝て両足を伸ばして軽く浮かせ、片足ずつ曲げて胸元に引き寄せます。回数は50回。股関節の詰まりが解消し、リンパが流れやすくなります。昼間テレビを観ながら、またはデスクワークをしながら、手のひらで股関節をさするようにマッサージするのもいいですよ。
このエクササイズ2つを毎日実践し、冷たいものや甘いものを控えること、3食バランス良く食べて、夜更かしせずにぐっすり眠ること。
とりあえずこれらを1カ月続けてみてください。何らかの変化があると思いますし、健康への意識も変わるはず。
「脾」に負担をかけない生活を心がけて
人はさまざまな理由で太りますが、可能性の1つとしてあるのが「脾(ひ)」の疲労です。
「脾」とは内臓のなかで消化器全般を表し、栄養を吸収するための臓器として重要視されている部分。
「脾」が弱いと「氣」「血」を十分に取り込む力がなくなり、血流が悪くなり冷えやすくなったり、代謝も落ちやすくなるため、太りすぎる(もしくは痩せすぎる)ことがあるのです。
「脾」が弱るとさまざまな症状があらわれます
・太りすぎる、痩せすぎる
・食欲不振、消化不良、胃もたれ
・下痢、便秘
・不正出血、あざ、皮下出血
・肌や唇の乾燥、荒れ
「脾」をいたわるために、気を付けたいこと
・冷たいもの、甘いもの、お酒のとり過ぎを避ける
・油っこい食べ物を控える
・冷房などで体を冷やさない
・ストレスを上手に発散する
目安として1年で5~10㎏太ったら危険領域だと言えます。
数年かけて徐々に体重が増えることは、更年期以降にありがちなことですが、一気に太るのは要注意。体のバランスが崩れて転びやすくなる、歩くのがおっくうになるなど、機能面でも悪影響が出るので気をつけてください。
反対に、太ったと言ってもそこまでではなく、食事が3食おいしく食べられて、ぐっすり眠れて、お通じも毎日あって、なにより楽しく不調なく暮らせていたら、体重の数字に一喜一憂しなくてもいいと思います。
むしろ過度なダイエットで急に痩せると、肌がシワっぽくなりますし、肉が落ちて体が冷え、風邪をひきやすくなる心配も。何事も中庸、ほどほどであることを心がけましょう。
取材・原文/上田恵子
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お悩み②
花粉症やアレルギーがあるので、免疫力を上げること、食事ではカロリーを抑える事を意識しています。できるだけ症状が軽くなるよう、免疫力を上げていきたいのですが、漢方の観点では具体的に、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。(48歳・会社員)
樫出さんの回答
免疫は「上げる」「下げる」ではなく、正常に働いているかどうかが大切です。
免疫が上がりすぎると、アレルギーにつながることも
いただいた内容から気になったのは、短い文面の中に、「免疫を上げる」というキーワードが二度も登場している点です。ここに相談者さんの誤解を感じたので、まずそこからお話をさせてくださいね。
実は漢方的観点では「免疫は上がりすぎると、アレルギーの原因になりやすい」と考えられています。
上がり過ぎも下がり過ぎも、どちらかに偏った体の状態は、病気を作り出してしまう、ということ。そのため漢方では、偏りのない中庸の状態を理想としているのです。
免疫力が上がり過ぎているとき、人の体は異物をより敏感に察知します。花粉やハウスダストなどにも敏感に反応するので、鼻水や皮膚のかゆみなどで、それらを出そうとするしくみが働きます。反対に免疫が下がり過ぎている時は、風邪を引きやすくなります。熱が出るのは、ウィルスを体の外に出そうとしているためです。
つまり、免疫はただ上げればいい、というものではありません。無理に上げても、その人本来の免疫力のバランスが崩れてしまえば、健康とは言えない状態になるからです。
あなたの免疫力は正常に働いていますか?
私はクライアントに対しても、免疫を上げようとか、下げようといった表現をすることはなく、いつも「自分の免疫を正常に働かせていきましょう」という伝え方をしています。
免疫が正常に働いている状態とは、それぞれの人が本来持っている、自然治癒力がしっかりと働いているということ。
漢方では、この自然治癒力の働きがとても重要だと考えられています。
自分の体の免疫力は正常に働いているのかどうか?
それは、次の簡単なセルフチェックからでもわかります。
①暑がり、または冷えている
暑がりでも寒がりでも、それは体の免疫がどちらかに偏っているサインです。
漢方的な観点では、花粉症やアレルギーを持つ人ほど、体が冷えていることが多くあります。体内に溜まった余分な水分は、本来は汗や尿で排出されるのが理想。ですが、冷えがあることで免疫機能が正常に働かなくなるため、鼻水で出てしまう…というわけです。体が温まると物理的に鼻水も減るので、足湯、背中に湯たんぽを当てるなどのセルフケアはおすすめですよ。
②夜中に目が覚める
免疫力が正常に働いている状態は、自律神経が整っている、と言い換えることもできます。
45〜48歳頃(相談者さんの年齢)から増えてくる自律神経の乱れとして多い不調は、睡眠の質の低下。トイレで起きるなども含め、睡眠中に中途覚醒があり、朝まで眠り続けることができない場合は、免疫力も正常に働いていない可能性が大。
朝すっきり起きられているか、夜はちゃんと眠くなるかどうかも、合わせて振り返ってみてください。
③朝はお腹が空かない
朝食時が最も空腹であること=免疫力の状態も中庸であるといわれています(漢方的に考えて三食の理想の割合は、全体を100とすると朝食50昼食30夜20)。
漢方の観点では、体の真ん中にある胃腸がちゃんと働いているかどうかをとても重視するからです。「朝は食べたいと思わない」「食欲がない」「何を食べてもおいしく感じない」という状態は、免疫のバランスが狂っているサインといえるでしょう。
朝一番に白湯を飲むのもおすすめです。胃腸の温度(38度)よりプラス5〜10度ぐらい、45〜48度ぐらいの白湯は体に負担をかけずに働いてくれます。
④不安が多い
免疫力を司る自律神経は、漢方でいう「気」の流れにも大きく左右されます。例えば、つねにいろいろな不安を抱えている人も、免疫力は狂いがちです。
自分が嫌だなと思ったことは最低限しないなど、心の負荷はなるべく減らしておきましょう。漢方では、未来の不安や過去の後悔にとらわれず、「今を生きる」という心持ちが、中庸につながると考えるからです。
取材・原文/井尾淳子
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お悩み③
耳の後ろ側など、昔は汗をかかなかったような場所に汗をかくようになりました。歳をとるごとに体の変化が少しずつ出てきていますが、汗をかく場所も、年齢によって変わることがあるのでしょうか?(42歳・会社員)
樫出さんの回答
年令によって、汗をかく場所は変わります!
40代以降、プレ更年期に入ると、熱が上に上がりやすくなります
思春期の頃は、主に下肢(足)に多く汗をかいていたのが、次第に体幹や全面に移り、上肢(腕)にかくようになり、40代以降になると頭部周辺にかくよう変わっていくのです。つまり、汗をかく場所は歳をとるほど、上に上にと上がっていく、ということです。
特に、頭部にかく汗はとても必要なもの。理由は、脳の温度のコントロールにもつながっているためです。脳の温度が上がりすぎることは危険ですから。のぼせや頭痛、更には機能障害を起こしてしまうからです。生命を維持するためにも汗をかいて脳の温度を下げ、一定に保つ必要があるのです。
額に汗をかく人は多いですよね。それも脳に近い重要な場所だから、というわけです。お悩みにある耳の後ろ、また首の後ろなども頭部に近いので、年齢を重ねて、そういった場所に汗をかくことが増えるのは大いに考えられるでしょう。
年齢によって汗をかく場所は変わる。その大前提のもと、OurAge世代に多い次の3つの原因についても、一緒に探っていきましょう。
汗をかく3つの原因
その①「冷え」はありませんか?
ご相談者さんの42歳という年齢を考えると、そろそろプレ更年期に入る頃。だんだん熱が上のほうに上がりやすくなると同時に、今度は下半身が冷えやすくなっていきます。
漢方的に言うと、それは「腎」の力が落ちている状態。腎は、とくに「腰から下のエネルギー」と考えます。高齢になると足腰が弱くなるのも、その下半身の力が落ちてくるから。
年齢とともに「腎」の力が落ちる、すなわち、生命エネルギーが低下してくると考えます。生命エネルギーが低下することで、「氣血水」のめぐりが悪くなり、冷えやすくなります。
また、腎のちからが低下すると腰痛・足・むくみ・子宮の病氣など特に下半身の不調が出やすくなり、下半身の冷えにつながります。腎は水のコントロールもするところなので、うまく水をコントロールできなくなり汗というかたちで、耳の周りや頭部に汗をかきやすくなります。
一方、熱は上に上がりやすくなります。耳の後ろという、頭部のまわりに汗が出ている可能性もあります。
その場合、汗を止めたいからと冷やすのは体を冷やすのは逆効果ですが、一時的に自律神経の通る首のうしろを冷やすのは、熱さと汗をとめることに役立ちます。
お腹や腰など、下半身を温めるようにしましょう。ゆっくりとお風呂に浸かり、リラックスしながら身体を温める。足首を回したり、足裏やふくらはぎのマッサージをして血行を促進させる。ウォーキングすると、上に上がった熱が下がり、汗も自然に止まってくるようになります。
その②「臭い」はありませんか?
薄いサラサラの汗の場合は該当しませんが、汗がドロドロして臭いが気になる…という場合、漢方では、血の巡りが滞る「瘀血」になっていると考えます。
瘀血の症状がある人はのぼせて汗をかきやすく、血がドロドロになっているのです。西洋医学的には、年齢とともにパルミトレイン酸という皮脂に含まれる脂肪酸が増えて酸化し、加齢臭の元となる、ノネナールという成分に変化すると言われています。
改善策としては、血を作る元となる食生活を改善すること。揚げ物などの動物性タンパク質や甘いもの、刺激物やカフェインの摂りすぎを避けて、大豆や黒豆、生姜、ネギなどを積極的に摂るよう心がけてください。また、運動不足にも気をつけましょう。
その③「ストレス」はありませんか?
氣持ちがウツウツとするとか、怒りが湧いてイライラするとか、あるいは心配事があってよく眠れない…ということはないでしょうか。
プレ更年期や更年期前後は、女性ホルモンが減ることにより、自律神経が乱れがちになります。
漢方では、自律神経の乱れは氣の巡りが滞る「氣滞」(熱がこもる)と捉え、氣のコントロールがうまく出来ていない状態と考えます。ストレスが原因で気が安定しない時、氣は上に上がりやすく、頭部の周囲(ご相談者さんの場合は耳の後ろ)に汗をかきやすくなっている状態かもしれません。
氣滞の症状があると呼吸も浅くなりがちなので、深呼吸を行う、アロマを取り入れるなどもおすすめです。
食養生としては、ミントや生姜、ミョウガ、シソなど、香りのあるものを取り入れるだけでも、氣の流れは良くなっていきます。
取材・原文/井尾淳子
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樫出恒代
漢方薬剤師・漢方ライフクリエーター。漢方カウンセリングルームKaon代表。Kaon漢方アカデミー代表。新潟薬科大学薬学部卒業後、一人ひとりのこころとからだにていねいに向き合う漢方カウンセリングを提唱。連載「女性のための漢方救急箱」の味わいあるイラストは、本人によるもの。美容家・吉川千明氏との共著に「内側からキレイを引き出す 美肌漢方塾」(小学館)
まとめ更新:2024/11/19